日本大百科全書(ニッポニカ) 「嗜銀顆粒性認知症」の意味・わかりやすい解説
嗜銀顆粒性認知症
しぎんかりゅうせいにんちしょう
argyrophilic grain dementia
銀染色によって描出される「嗜銀顆粒」とよばれる病的構造物の脳内蓄積を特徴とする認知症。AGDと略称される。嗜銀顆粒は、脳内の海馬(かいば)、扁桃(へんとう)体などの内側側頭葉、感情の座とされる扁桃体~側頭葉移行部(迂回回)に蓄積する。とくに迂回回に集中する傾向が強く、MRIなどの画像検査では脳、とくに側頭葉内側前方に左右非対称の萎縮(いしゅく)がみられることが特徴とされる。高齢者の5~9%に嗜銀顆粒を認めるが、嗜銀顆粒があっても認知症はない例もあり、こうした例は「嗜銀顆粒病」とよばれる。アルツハイマー病など他の変性疾患、とくに大脳皮質基底核変性症と高頻度に合併することが知られている。
確定診断は生前にはむずかしく、剖検脳(死後脳)の病理学的検索によって行われるが、臨床的に診断するうえでは、(1)多くは70歳以上(アルツハイマー病に比べて高齢発症)、(2)記憶障害もみられるが、頑固、易怒性、被害妄想、性格変化、暴力などの症状が目だちやすい、(3)脳画像で左右差のある側頭葉内側前方の萎縮がみられる、(4)アルツハイマー病の指標とされる脳脊髄(せきずい)液中のアミロイドβ(ベータ)やタウ(タンパク質)は多くの場合正常、がポイントになる。脳画像検査では、CTやMRIのような形態画像では側頭葉内側に左右差のある萎縮を、またSPECT(スペクト)やPET(ペット)など機能画像では左右差のある血流低下を認める。現在のところ確立された治療法はない。効果は十分には期待できないものの、一般的にはアルツハイマー病に準じた治療が行われる。
[朝田 隆 2023年9月20日]