認知症(読み)にんちしょう(英語表記)dementia

  • (お年寄りの病気)
  • にんちしょう ‥シャウ
  • にんちしょう〔シヤウ〕

翻訳|dementia

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

脳の器質障害によって,いったん獲得された知能が持続的に低下・喪失した状態をいう。記銘力・記憶力・思考力・判断力・見当識の障害や,失行・失語,実行機能障害,知覚・感情・行動の異常などがみられる。原因疾患にはアルツハイマー病ピック病老年痴呆脳血管障害てんかん慢性アルコール依存症アルコール中毒)などがある。発症時期によって,老年期認知症(65歳以上),初老期認知症(40歳~64歳),若年期認知症(18歳~39歳)と呼ばれる。厚生労働省は2004年,従来の「痴呆」ということばには侮蔑的な味合いがあるとして,呼称を「認知症」に改めた。

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知恵蔵の解説

認知症とは加齢による記憶障害を主とした病気全般を指す。認知症には血管障害によるもの、アルツハイマー病、その他様々なものが含まれる。脳血管障害による認知症には、脳血管が詰まって起こる脳梗塞や血管が破れて起こる脳出血などが含まれている。脳血管障害による認知症では障害部位によって症状が異なり、単なる記憶力の低下だけではなく、めまい、しびれ、言語障害、知的能力の低下など様々な症状を示す特徴がある。アルツハイマー病は初老期の認知症の代表的なもので、脳が全体的に萎縮し、大脳皮質に特異な老人斑が現れて神経原線維に変化が起こる。まず記銘、記憶に障害が起き、特に新しい記憶の障害が目立つ。病気が進行すると、徘徊や多動傾向が見られ、昼夜逆転も生じる。人格が次第に崩壊し、感情の豊かさが失われ、やがて失語症失認症などが起こる。原因は不明で、治療法は確立していない。

(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)

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朝日新聞掲載「キーワード」の解説

厚労省研究班の推計によると、65歳以上の高齢者のうち認知症の人は15%で約7人に1人、2012年時点で462万人にのぼる。さらに軽度認知障害(MCI)と呼ばれる「予備群」も約400万人いる。認知症の把握がより正確になったことや、高齢化が進んだことなどから、有病率は1985年の6・3%から2倍以上に。最も多いのは、「アルツハイマー型」で半数以上を占める。

(2013-12-19 朝日新聞 朝刊 生活1)

厚生労働省研究班によると、65歳以上で認知症の人は2012年時点で約462万人。いくつかのタイプがあり、記憶障害が典型的な症状の「アルツハイマー型」が最も多く、7割近くを占める。脳出血など脳血管障害が原因の型が2割ほど、幻視などを伴う「レビー小体型」が4%ほどとされる。高齢化で25年には高齢者の5人に1人の700万人に増えるとみられている。65歳未満で発症する若年認知症の人も09年発表の厚労省調査で推計約3万8千人いる。

(2016-12-26 朝日新聞 夕刊 1総合)

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デジタル大辞泉の解説

dementia》成人後に、脳に損傷を受けることによって認知機能が低下する状態。脳血管障害、脳外傷、変性疾患アルコール中毒などが原因で起こる。原因疾患からアルツハイマー型認知症脳血管性認知症レビー小体型認知症などに分類される。→若年性認知症老人性認知症
[補説]「痴呆症」「痴呆」の言い換え語。「痴呆」には蔑視の意があるとして厚生労働省が平成16年(2004)12月に報告書を提出し、変更された。

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百科事典マイペディアの解説

脳血管疾患,アルツハイマー病その他の要因にもとづく脳の器質的な変化により,日常生活に支障が生じる程度にまで記憶機能およびその他の認知機能が低下した状態。2005年6月成立の改正介護保険法で,従来の〈痴呆〉という表現が改められた。痴呆という言葉は侮蔑的で誤解を招きやすく,早期発見や早期診断に支障をきたす等の指摘を踏まえた変更。法改正に先立ち,2004年12月厚生労働省は行政用語を変更した。
→関連項目救急カードグループホームクロイツフェルト=ヤコブ病化粧療法見当識障害精神分裂病知的障害訪問看護ステーションポジトロン断層撮影法補助南田洋子

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食の医学館の解説

《どんな病気か?》


〈認知症には脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症がある〉
 中年をすぎると、脳細胞や神経細胞も老化してきます。そのために、もの忘れ、不眠などが目立つようになり、動作も緩慢になってきます。
 これは生理的な変化で、多かれ少なかれだれにでも起こることです。しかし、脳・神経細胞の衰えから病的な変化が現れることもあります。
 その代表が認知症やパーキンソン病です。
 認知症は健忘をおもな症状とし、知的機能が徐々に低下していく病気で、大きく2つのタイプにわかれます。
 1つは脳血管性認知症で、脳梗塞(のうこうそく)や脳卒中(のうそっちゅう)の発作(ほっさ)などにより脳が障害を受けて起こるものです。
 もう1つは、脳などに障害がなく、原因がわからないアルツハイマー型認知症です。脳血管性認知症が急速に発症するのに対し、アルツハイマー型認知症は段階的に症状が進行していきます。
 最初は、今日が何日か、といった時間の感覚が失われ、しだいに自分がいる場所もわからなくなります。さらには幻覚や妄想(もうそう)が現れ、社会生活や日常生活にも支障をきたすようになります。
 従来、日本では認知症の6割が脳血管障害によるもので、アルツハイマー型は3割程度とみられていましたが、近年は脳血管障害だけによる認知症はそれほど多くないと考えられています。
 最近の研究では、脳内のアセチルコリンという神経伝達物質の減少がアルツハイマー型認知症の発病に関係していることがわかってきました。また、この病気の人にみられる脳・神経細胞の萎縮(いしゅく)や脱落は、活性酸素の害が影響をおよぼしているとも考えられています。
<だれにでもできる簡単ぼけテスト>
◇診断方法
問題は正解に対して1点。
問題4は、1つの言葉に対し、それぞれ各1点。
問題6、8、9は正解に対し、それぞれ各1点。
総得点は、30点。
 20点以下=認知症症を疑ってみたほうがいいでしょう。
 10点以下=かなり進んだ知能低下を意味しています。
明らかに認知症症の疑いがある場合はまず認知症専門医のいる病院で受診しましょう。
 また、最寄りの自治体の高齢者福祉課などでも、相談を受け付けています。

●問題1 お歳はいくつですか?
(2年までの誤差は正解とする)

●問題2 今日は何年の何月何日ですか? 何曜日ですか?
(年、月、日、曜日が正解でそれぞれ1点ずつ)

●問題3 私たちがいまいるところは、どこですか?
(自発的にでれば2点、5秒おいて、家ですか? 病院ですか? 施設ですか? のなかから正しい選択をすれば1点)

●問題4 これから言う3つの言葉を、よく覚えておいてください。あとで聞きますので、言ってみてください。
(以下の2系列のいずれか1系列で、採用した系列に○印をつけておく)
1:a)桜 b)猫 c)電車
2:a)梅 b)犬 c)自動車

●問題5 100から7を順番に引いてください。
(100-7は? それからまた7を引くと? と質問する。最初の答が不正解の場合、打ち切る)
正解;93、86

●問題6 私がこれから言う数字を逆から言ってください。
(6-8-2、3-5-2-9を逆に言ってもらう、最初の3桁逆唱に失敗したら打ち切る)
正解;2-8-6、9-2-5-3

●問題7 先ほど覚えてもらった(問題4の)言葉を、もう一度言ってみてください。
(自発的に回答があれば各2点、もし回答がない場合、以下のヒントを与え、正解であれば1点) a)植物 b)動物 c)乗り物

●問題8 これから5つの品物を見せます。それを隠しますので、何があったか言ってください。
(時計、鍵、タバコ、ペン、硬貨など必ず相互に無関係なものを使用する)

●問題9 知ってる野菜の名前を、できるだけ多く言ってください。
(答えた野菜の名前を記録する。途中でつまり、約10秒待っても答えない場合にはそこで打ち切る)
1~5個=0点、6個=1点、7個=2点、8個=3点、9個=4点、10個=5点
(改訂版長谷川式簡易知能評価スケールより)
〈パーキンソン病は脳内伝達物質のアンバランスで起こる〉
 一方、パーキンソン病というのは、運動を調整する脳の機能が障害を受けて起こるものです。ふるえ、筋肉のこわばり、動作の緩慢といった症状がみられ、ちょっと押されても転倒してしまいます。
 原因は神経伝達物質であるアセチルコリンとドーパミンのバランスのくずれにあります。
 運動調節はこの2つの物質がバランスをとることでスムーズに機能しますが、パーキンソン病の人は、ドーパミンがつくられなくなり、相対的にアセチルコリンの量がふえて症状が現れます。

《関連する食品》


〈臨床実験で有効と認められたDHA、ギンコライド〉
○栄養成分としての働きから
 まず認知症の予防や改善に効果のあるものから紹介していきましょう。
 イワシ、サバなど背の青い魚の脂(あぶら)に多く含まれているDHA(ドコサヘキサエン酸)は、脳血管の入り口にある血液脳関門を通過できる性質があり(血液中のすべての成分が脳に入れるわけではないのです)、脳や神経系への薬理作用が認められています。実際に認知症の患者さんに使用したところ、症状が改善されたという臨床試験の結果があります。
 またDHAは、血液を流れやすくするので、脳血管性認知症の原因となる脳梗塞などの予防にも有効です。マグロやイワシなどに多く含まれるIPA(イコサペンタエン酸)にも同様の作用があり、脂の多い魚は、まさに“健脳食”の代表です。
 イチョウの葉やギンナンに含まれているギンコライドも、認知症への効果が期待されている成分です。ドイツではすでに認知症の治療薬として認可されているほか、アメリカでもアルツハイマー型認知症に対する効果が研究されているそうです。
 ギンコライドには、脳のエネルギーのもとになるブドウ糖濃度を高め、有害な乳酸の濃度を下げる、脳の末梢血管(まっしょうけっかん)を広げる、血液の流動性を高める、活性酸素の害を防ぐなどすぐれた働きが多数あり、日本ではイチョウ葉エキスとして健康食品店などで売られています。
 ダイズ製品、卵黄、チーズ、レバーなどに含まれているレシチンは、記憶力や認知能力にかかわる神経伝達物質アセチルコリンの材料となる成分です。レシチンを摂取することで、加齢とともに減少しがちなアセチルコリンを補給でき、アルツハイマー型認知症の予防や治療に有効です。
〈パーキンソン病にはビタミンB6 、トリプトファンが有効〉
 脳や神経系の働きにかかわるビタミンB6、B12、葉酸(ようさん)などのB群も不足しないように気をつけましょう。認知症の人は、とくにB12と葉酸が不足している傾向にあり、これらを補給することにより、症状が軽くなったという報告もあります。
 また、ビタミンB6は神経伝達物質ドーパミンの合成にかかわっており、ドーパミンが不足して起こるパーキンソン病に有効です。B群はそれぞれ連携して働くので、まんべんなくとることがポイントです。ビタミンB6はマグロ、サンマ、ビタミンB12はアサリやカキ、葉酸はレバー、ホウレンソウに多く含まれています。
 パーキンソン病では、たんぱく質に含まれるトリプトファンやフェニールアラニンも、ドーパミンをつくる働きがあり、病気の予防に役立ちます。どちらも肉類、魚類、たまご、牛乳などに多く含まれています。
 ほかに抗酸化作用のあるビタミンCやEも脳の老化予防に欠かせない成分で、認知症とパーキンソン病の両方に効果があります。
 ビタミンCは、キウイ、パパイア、ビタミンEはカボチャやナッツ類に豊富です。なおビタミンEは、Cの抗酸化作用をより高める働きもあるので、ぜひ合わせてとりましょう。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

いったん発育した脳が損傷されて、その結果として、それまでに獲得された知的能力が低下してしまった状態をいう。この状態について、日本では長らく「痴呆(ちほう)」という呼称を用いてきたが、2004年(平成16)に厚生労働省が、一般的な用語や行政用語としては「認知症」が適当であるとの見解を示し、「認知症」を用いることとなった。同省は、この変更の理由として、「痴呆」という用語は侮蔑(ぶべつ)的な表現であるうえに、症状の実態を正確に表しておらず、早期発見・早期診療等の取り組みの支障となっていると報告している。なお、法律上の用語については法改正のなかで検討され、医学上の用語としては「痴呆」が使用される場合もある。

 認知症の初期には精神活動の知的コントロールが弱くなり、性格特徴が先鋭化することがある。短気だった人がいっそう怒りやすくなり、あるいは倹約家が極端に吝嗇(りんしょく)となる。認知症が進むと早晩記憶障害が現れる。新しいことを学習するのが困難となり、最近のことをよく忘れる。社会的関心が乏しくなり、複雑な行為ができなくなる。かつては知っていた諺(ことわざ)の理解や高度な関係性の把握が困難になる。思考はまとまり悪く、断片的となる。しばしば同じことを繰り返す。いまいる所はどこか、いまは何時ごろかなど、自分の現在の位置づけができなくなる(失見当識)。感情は不安定となり、あるいは適度な不安や緊張を失う。認知症が高度になると、思考や判断力はいっそう低下し、関心や自発性もなくなる。記憶障害も強度となり、自分の年齢や、結婚したことがあるかないかもわからなくなる。介助がなければ食事、排泄(はいせつ)など身の回りのこともできなくなる。状態は一般に慢性的で可逆性に乏しい。原因としては脳炎、脳外傷、循環障害、変性疾患、中毒(アルコール、一酸化炭素、水銀など)、そのほか脳を破壊する多くの脳疾患があげられる。今日の高齢化社会でもっとも問題になっている医学上の「痴呆」は、高齢者にみられる血管性痴呆(動脈硬化性痴呆)とアルツハイマー型老年痴呆である。

 治療としては、それぞれの基礎疾患に対する治療が最優先である。同時に患者に対する生活上の介助、看護、合併症の予防などが進行を防ぐのにたいせつである。

 なお、精神医学では、統合失調症のために人格が持続的に障害された場合も「痴呆」とよぶことがある。また、心因性に痴呆に似た状態が問題になり、仮性痴呆(ガンゼル症候群)とよばれる。

[原田憲一]

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精選版 日本国語大辞典の解説

〘名〙 「ちほう(痴呆)②」に変わる呼称。平成一六年(二〇〇四)よりこの語に改められた。医学上の用語としては「痴呆(ちほう)」が使われる場合もある。

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最新 心理学事典の解説

認知症とは,いったん正常に発達した知能が後天的な脳の器質的障害により低下し,日常生活・社会生活に支障を来している状態である。これに対して,生来的な脳障害のために知能が十分に獲得されない状態は,発達遅滞ないし知的障害という。認知症とはもともと主に非可逆的で治療不可能な病態を指していたが,治療可能な認知症treatable dementiaの概念が広がっていること,代表的な認知症性の疾患であるアルツハイマー病Alzheimer's diseaseに対しても将来的には根治療法が夢ではないことから,必ずしも非可逆的で治療不可能という規定は適切ではなくなってきている。なお,アルツハイマー病の病名は,最初に症例報告を行なったドイツの医師アロイス・アルツハイマーAlois Alzheimerの名前に由来する。アルツハイマー病では脳に老人斑というアミロイドが沈着し,神経細胞内に糸くずのような神経原線維が出現する。それとともに大脳皮質の広範な萎縮が見られ,記憶をはじめとして知的機能や人格に著しい低下が見られる。

 認知症は以前は「痴呆」とよばれていたが,2004年12月に厚生労働省が行政用語として呼称変更を決定し,今日では学術用語としても,あるいはマスコミや一般的な場面でも認知症という用語がほぼ定着している。ただし,「認知」という語をそのまま病名として用いることは適切ではないとして,心理学系・認知科学系の学会からは「認知失調症」という代案が提出された経緯がある。

 臨床でよく用いられる現行の診断基準の一つである1990年の『国際疾病分類』第10版(ICD-10)では,「認知症は脳疾患による症候群であり,通常は慢性あるいは進行性で,記憶,思考,見当識,理解,計算,学習能力,言語,判断を含む多数の高次皮質機能障害を示す。意識の混濁はない。認知障害は,通常,情動の統制,社会行動あるいは動機付けの低下を伴うが,場合によってはそれらが先行することもある」と規定されている。このような認知症を来す病因は大きく神経変性疾患(変性性認知症degenerative dementia)と血管性認知症vascular dementia,その他に分けられる。神経変性疾患はアルツハイマー病以外に,レビー小体型認知症dementia with Lewy bodies(神経細胞に蓄積した異常な構造物,すなわちレビー小体が認知障害を引き起こすもので,幻覚が生じるのが特徴),前頭側頭型認知症frontotemporal dementia(ピック病Pick's disease 脳の前頭葉と側頭葉が萎縮することによって認知障害が起き,人格障害が生じることに特徴がある)などが挙げられる。血管性認知症は脳血管障害の様態によっていくつかの亜型に分類できるが,アルツハイマー病の要素を併せもつ混合型認知症が少なくない。そのほかの病因としては,甲状腺機能低下症などの内分泌疾患,クロイツフェルト-ヤコブ病や神経梅毒といった神経感染症,ビタミン欠乏症などの代謝性疾患,頭部外傷などが挙げられる。

 認知症発症の最大の危険因子は年齢であるが,ほかに家族歴,遺伝子要因,動脈硬化性要因などがアルツハイマー病や血管性認知症の危険因子となる。主観的・客観的に記憶障害ないし他の認知機能障害を認めるが,日常生活能力はほぼ保たれ,認知症とはいえない状態を軽度認知障害mild cognitive impairment(MCI)とよぶ。MCIは認知症の前段階として重要だが,必ずしも認知症を発症するわけではない。

 認知症の症状は,中核症状周辺症状に分けられる。中核症状とは記憶や見当識,理解,計算,言語,判断など認知機能の障害である。中核症状を簡便に評価するスクリーニングテストとしては,改訂長谷川式簡易知能評価スケールとアメリカで開発されたミニメンタルステート検査mini-mental state examination(MMSE)がある。周辺症状は,認知症の行動-心理症状behavioral and psychological symptoms of dementia(BPSD)ともよばれ,さまざまな精神症状や行動障害を指す。

 認知症の中核症状に対しては,根治療法といえる薬物はなく,現時点ではあくまでも対症療法にとどまる。アルツハイマー病の症状進行を遅らせるためには,アセチルコリンエステラーゼ阻害薬acetylcholinesterase inhibitor(知的機能に重要な神経伝達物質であるアセチルコリンの分解を阻害することにより,脳内のアセチルコリン量を増やす役割をもつ薬物)を用いることが広く行なわれている。今後はアルツハイマー病の病因とかかわるタンパク質のβアミロイドやタウを標的とした治療法の進展に期待がもたれている。認知症の周辺症状に関しては,それぞれの症状に対する対症療法として,さまざまな向精神薬や向認知症薬が用いられる。しかし,認知症に対する薬物療法は限定的で,現時点での治療の主体はむしろデイケア,デイサービスなどの非薬物療法である。 →記憶障害 →認知
〔三村 將〕

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六訂版 家庭医学大全科の解説

痴呆と認知症

 「痴呆」という用語は、以前から学術用語として一般に使われてきた言葉です。しかし、高齢化社会になってこの言葉が広く使われるようになると、これが差別用語的であって一般には使いにくいという声が聞かれるようになりました。似たような言葉として「ボケ」という言葉も使われますが、これはもっと漠然とした状態を指しており、しかも使い方によってはやはり差別用語的になる場合があり適当な言葉ではありません。

 そこで2004年に厚生労働省では委員会を設けてこの問題の検討を依頼しました。しかし「痴呆」という用語は学術用語ですから、本来専門の学会が審議すべき問題なので、ここでは行政用語として「痴呆」に代わるよい呼び方を審議するということを目的としていたわけです。その結果、行政用語としては「痴呆」という言葉を使わずに「認知症」という言葉を使うこととしました。そして新聞・放送などの一般のマスコミでもこの言葉を使用してほしいと要請しました。

 しかし「認知症」は、専門の学会とは無関係に厚生労働省の委員会が提唱した用語にすぎず、学術用語としてはなじまない異質な言葉でもあったために、学会ではしばらくこの用語を用いませんでした。ところがマスコミが盛んにこの言葉を使って世間的にも広まったために、これを使わざるをえなくなりました。

 「認知症」はこのような経緯で生まれて使われるようになった言葉なので、学術用語として古くから使われ、その定義や診断基準などが確立されてきた「痴呆」という言葉に比べて曖昧(あいまい)な点があることは否めません。しかし「痴呆」の代わりに使われるようになった言葉なので、同義語として考えてよいと思われます。

認知症とはどんな状態か

 したがって次のような「痴呆」の特徴、すなわち「正常に発達した知能が脳の後天的な障害によって正常なレベル以下に低下した状態」を指し、「知能の発達がもともと悪い状態(知的障害)とは区別が必要であること」、「意識障害、統合失調症うつ病などや、記憶障害のみの健忘とも区別されるべきであること」という特徴をもつことは当然です。

 もっと厳密にいうならば、従来の「痴呆」という用語の定義としてDSM­Ⅳという基準における各痴呆性疾患に共通する項目として表3のようなものがあげられてきましたが、認知症も同様な項目が満足されなければならないと考えます。

原因は何か

 認知症とはこのように病態を示す言葉であり、ひとつの疾患を指す言葉ではありませんので、この状態は多くの疾患で起こりえます。

 主な疾患としては表4にあげたようなものがあります。なかでも認知症が前景に出る代表的な疾患が、アルツハイマー病であるといえます。

治療とケアのポイント

 最も肝心なのは早期発見です。早期発見・治療によって認知症にならずにすむこともあります。予防可能な認知症、治療可能な認知症などと呼ばれます。脳外科的疾患、たとえば正常圧水頭症(せいじょうあつすいとうしょう)慢性硬膜下血腫(まんせいこうまくかけっしゅ)などによるものでは脳外科的手術で予防や治療ができます。感染症、内分泌疾患、代謝性疾患、中毒性疾患などによるものでも、各疾患の予防あるいは治療によって認知症になる前の予防も可能ですし、軽いうちならば治療もできます。ですから認知症になったからといっても、必ずしも不可逆的(ふかぎゃくてき)(元の状態にもどらない)ということではありません。

 しかし、原因が不明だったり、よい治療法がないか、あっても不十分な場合も残念ながらまだ多いのです。アルツハイマー病の場合には、治療薬のドネペジル(アリセプト)を早期に使うと、ある期間はかなりの例に効果があることが知られています。しかし、残念ながら効果の程度もこれが効く期間も限度があります。

 「キュア(治療)よりもケア(介護)」といわれるように、やはりケアが重要です。ケアの原則は患者さんの身になって、患者さんと「なじみ」になり、患者さんを叱らず、自尊心を傷つけず、説得よりも納得のケアを心がけることが大切です。

平井 俊策


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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マラドーナ

[生]1960.10.30. ブエノスアイレスアルゼンチンのサッカー選手。アルゼンチンリーグ 1部に史上最年少の 15歳でデビュー。代表チームにも 16歳4ヵ月の最年少デビューを果たした。1979年,...

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