日本大百科全書(ニッポニカ) 「地衣成分」の意味・わかりやすい解説
地衣成分
ちいせいぶん
地衣体を構成する菌類が、同じく地衣体を構成する藻類によって合成された炭水化物、糖アルコールを素材として二次的に生体内合成した第二次代謝産物の総称。この第二次代謝産物は、緑色植物の成分や菌類の成分と共通しているものはごく少なく、菌類と藻類が共生状態になった地衣類特有の代謝産物と考えられている。代表的な地衣成分には、デプシド、デプシドン、ジベンゾフラン、クロログルシン誘導体、アントラキノン類、キサントン、プルビン酸系化合物、トリテルペノイドがあげられる。このなかのデプシド、デプシドンは早くから地衣酸の名前で知られ、地衣類の分類に有力な手掛りを与えるものとして利用されてきた。多くの地衣類は1種類ないし数種類の地衣成分を含有しているため、この成分の種類によって地衣類の種を分類する、いわゆる化学分類の方法が一般的に行われている。たとえば、ムシゴケとトキワムシゴケは高山のハイマツ帯などに混生していることが多いが、ムシゴケはデプシドの一種であるタムノール酸を含み、トキワムシゴケはベオミケス酸とスカマート酸を含むことで区別される。
地衣成分の多くは、無色ないし白色であるが、ときには黄色や橙黄(とうこう)色などのものもある。これらの成分は色素として古くから用いられてきた。リトマスゴケ属の数種の地衣類がその一例である。また、ニュージーランドのマオリ人なども、ヨロイゴケ属の地衣類を染料として利用してきた。
[佐藤正己]