翻訳|algae
一般に藻類というと,水中生活を営む体制の単純な植物を指すが,系統的には多様な生物群の集りで,厳密に定義すると,光合成の過程で酸素を放出する光合成生物からコケ植物と維管束植物を除く残りのすべてということになる。しかし光合成色素を欠くものでも体制や生殖方法が類似していれば,藻類として扱われる。
藻類の生育場所はほとんどが水中,つまり海,汽水,および淡水である。海では太陽光の届く大陸棚の深さまでであり,それ以下の深海では育たない。ちなみに海藻で知られた最深の生育記録は199m(褐藻ツルアラメ)である。緑藻のクロレラや黄緑藻のフウセンモのように,土壌中や土壌の表面に生育するものや,緑藻のスミレモやクロロコックムのように,岩上や樹木の表面に生育するものもある。またラン藻のネンジュモのある種のように,ソテツやツノゴケなど他の植物の組織内に生育するものもある。地衣類が,子囊菌と緑藻類またはラン藻類との共生体であることはよく知られている。緑藻類をもつ地衣類はやや緑色がかり,かたい手ざわりであるが,ラン藻類をもつものは黒色がかり,やわらかい手ざわりである。藻類の中には80℃以上にもなる高温の温泉水が流れるところに好んで生育するものがあり,またこれとは対照的に雪の中や氷の割れ目などに生育するものもある。前者は温泉藻と呼ばれ,ラン藻のシネココックス属やユレモ属などのある種や紅藻イデユコゴメがその仲間であり,後者は氷雪藻と呼ばれ,緑藻のクラミドモナスがその代表である。
水中の藻類には,岩や石またはその他の基物について生育するものと,水中に漂って生育するものとがある。基物について生育するものを底生藻または着生藻といい,漂って生育するものを浮遊藻という。浮遊藻はふつう植物プランクトンと呼ばれる。
藻類の分類には,最も重要な物質代謝である光合成に関する特徴が,第1の基準となっている。この分類の歴史は古く19世紀の前半までさかのぼる。当時の海藻研究の第一人者であったアイルランドのハーベーW.H.Harveyは,海藻の体の色の違いが体の構造や生殖方法の違いと対応することを知り,色を基準にして海藻を(1)Rhodospermeae,(2)Melanospermeae,(3)Chlorospermeaeの3群に分類した(1836)。これらの(1)は現在の紅藻綱Rhodophyceae,(2)は褐藻綱Phaeophyceae,(3)は緑藻綱Chlorophyceaeにそれぞれ相当する。色は視覚で容易にとらえられる一種の形態的特徴であるせいか,当時この分類は人為分類であるという批評もあった。しかし,20世紀に入ると,色の違いは色素体に含まれる光合成色素組成の違いに起因することや,色が違うと光合成産物も異なることなどがわかり,ハーベーの分類は優れた自然分類としての地位を固めるに至った。さらに,光合成色素組成や光合成産物の基本的な違いは,生物の重要な営みである生殖に関与する細胞の構造の違いともよく対応することが明らかとなってきた。このことを少し詳しく説明すると次のようである。クロロフィルaのほかに主要な補助色素としてフィコエリトリンやフィコシアニンなどの色素タンパク質をもち,光合成産物として紅藻デンプンを貯蔵する紅藻類は鞭毛をもたない生殖細胞をつくるのに対し,クロロフィルaとcのほかにフコキサンチンをもち,ラミナランやマンニトールを貯蔵する褐藻類は,長短2本の鞭毛を側部にもつ先のとがった卵形の泳ぐ生殖細胞を形成する。この2本の鞭毛のうち,前方に伸びるものは両側に小毛を並列する,いわゆる羽型鞭毛であり,後方に伸びるものは表面に付属物のないむち型鞭毛である。またクロロフィルaとbをもち,デンプンを貯蔵する緑藻類では,泳ぐ生殖細胞は先のとがった卵形が基本型で,前端から前方に等長,むち型の鞭毛が伸びる。現在,藻類の分類体系は研究者により多少扱い方が異なるが,光合成と生殖にかかわる特徴を主要な基準にとりあげ,次の15綱に分類する場合が多い(表1参照)。ラン藻綱Cyanophyceae,紅藻綱Rhodophyceae,クリプト藻綱Cryptophyceae(=褐色鞭毛藻綱),渦鞭毛藻綱Dinophyceae(=炎藻綱,橙藻綱),ハプト藻綱Haptophyceae,褐藻綱Phaeophyceae,黄金色藻綱Chrysophyceae(=ヒカリモ綱,黄色鞭毛藻綱),ケイ藻綱Bacillariophyceae,黄緑藻綱Xanthophyceae(=不等毛綱),ラフィド藻綱Raphidophyceae(=緑色鞭毛藻綱),真正眼点藻綱Eustigmatophyceae,ミドリムシ藻綱Euglenophyceae,プラシノ藻綱Prasinophyceae(=異型緑藻綱),緑藻綱Chlorophyceae,車軸藻綱Charophyceae。
陸上のコケ植物,シダ植物,種子植物は,上記の光合成や生殖細胞の特徴が基本的には車軸藻類や緑藻類と同じである。このことからコケ植物,シダ植物,および種子植物などは,車軸藻綱や緑藻綱などとともに緑色植物の1亜門として扱われることがある。これらの植物はすべて系統的には同じ系列に所属するもので,区別点は,生殖器官が単細胞であるか多細胞であるか,受精卵が親の体内で発生を始めるか,それとも体外でするか,すなわち,胚をもつかもたないか,植物体に維管束があるかないか,そして繁殖の手段として種子をつくるか,つくらないかなどである(表2参照)。
最近,電子顕微鏡による研究の結果,緑藻類には,細胞分裂の際の隔膜形成の様式が大別して三つあり,しかもそれらの違いは生殖細胞の鞭毛基部装置の構造の違いともよく対応することが明らかとなり,これらの事実に基づいて,緑藻綱をコレオケーテ綱Coleochaetophyceae,緑藻綱Chlorophyceaeおよびアオサ綱Ulvophyceaeの3綱に分ける分類系が提案されている。このうち,コレオケーテ綱は陸上植物につながる系統群であるのに対し,狭義の緑藻綱はもっぱら淡水に,そしてアオサ綱は海にそれぞれ生育の場をもつ系統群である。
藻類は陸上植物に比べて体制ははるかに単純であるが,多様性に富んでいる。次におもな体制と代表的な藻類名を記す(図1)。
(1)遊泳性単細胞体制 クラミドモナスChlamydomonas(緑藻),オクロモナスOchromonas(黄金色藻)。(2)遊泳性群体体制 ゴニウムGonium(緑藻),ウログレナUroglena(黄金色藻)。(3)非遊泳性単細胞体制 クロロコックムChlorococcum(緑藻),クロリデラChloridella(黄緑藻)。(4)非遊泳性群体体制 スフェロキスチスSphaerocystis(緑藻),クリソカプサChrysocapsa(黄金色藻)。
次に記す(5)~(7)は組織をもつ体制で,ここには細胞が1平面だけに分裂してできる単列糸状体制,2平面に分裂してできる平面的葉状体制,さらに3平面に分裂が起こる立体的葉状体制がある。(5)単列糸状体制 ヒビミドロUlothrix,スチゲオクロニウムStigeoclonium(緑藻),シオミドロEctocarpus(褐藻),ヒモモTribonema(黄緑藻)。(6)平面的葉状体制 ヒトエグサMonostroma(緑藻),アマノリPorphyra(紅藻)。(7)立体的葉状体制 フリッチエラFritschiella(緑藻),カシラザキHalopteris,コンブLaminaria(褐藻),ヒジキHizikia(褐藻),ホンダワラSargassum(褐藻)。
以上のほかに特殊な体制として多核体制があり,これには体が単一細胞からなるもの,隔壁をもつ細胞からなるもの,および変形ともいうべき無隔壁単核体制がある。(8)無隔壁多核体制 ミルCodium(緑藻),ツユノイトDerbesia(緑藻),フウセンモBotrydium(黄緑藻),フシナシミドロVaucheria(黄緑藻)。(9)有隔壁多核体制 シオグサCladophora(緑藻),ジュズモChaetomorpha(緑藻)。(10)無隔壁単核体制 カサノリAcetabularia(緑藻)。
これらの体制のうち(1)は最も単純なもので,おそらく生物の始原的な形態に近いものであろうと考えられている。最も複雑な形態は(6)に見られ,褐藻ホンダワラ属の体は藻類の中で最高度に分化して,根,茎,葉の区別が外見上明りょうであり,陸上植物の体を思わせる。
藻類の世代交代には大別して三つの様式がある。第1は外見上同形の配偶体と胞子体の間で世代交代をする。いわゆる同型世代交代で,褐藻のアミジグサ,緑藻のアオサやシオグサなどに見られる。第2は大型の配偶体と小型の胞子体の間の世代交代で,褐藻のムチモやカヤモノリ,紅藻のアサクサノリ,および緑藻のヒトエグサなどに見られる。この様式は基本的にはコケ植物の世代交代と同じである。第3は,逆に小型の配偶体と大型の胞子体の間の世代交代で,褐藻のコンブやワカメ,緑藻のツユノイトなどに見られる。この様式は基本的にはシダ植物の世代交代と同じである。上記のいずれの世代交代の場合も,配偶体は卵と精子あるいは同形または異形の配偶子を形成し,これらの合体によってできた接合子が発芽すると胞子体となる。胞子体は後に成熟して減数分裂を行って遊走子や四分胞子をつくり,これらが発芽して配偶体にもどる。したがって,配偶体の核相は単相(n),胞子体は複相(2n)である。すなわち,世代交代に伴って核相交代も行われていることがわかる。
藻類には世代交代をしない生活史をもつものもある。そのような生活史には大別して二つの様式がある。一つは緑藻のアオミドロや車軸藻のシャジクモとフラスコモに見られるもので,ふつうに見る藻体は単相の配偶体で,ここにつくられた雌雄配偶子の合体により生じた接合子は,減数分裂を行って配偶体の始原細胞をつくる。したがって,これらの藻類の生活史は単相の配偶体の世代だけからなり,複相は接合子の時期のみである。この生活史とは逆に,褐藻のホンダワラや緑藻のミルの生活史は複相の世代のみからなる。この藻体で減数分裂によりつくられた卵や精子,あるいは異形の雌雄配偶子が合体してできた接合子が発芽すると,親と同形の体に生育する。この生活史の様式は,基本的には後生動物のそれと同じである。
以上に述べた生活史の様式をまとめると,次のようになる。(1)単相の体のみ,(2)単相の体>複相の体,(3)単相の体=複相の体,(4)単相の体<複相の体,(5)複相の体のみ(図2)。
紅藻のテングサやオゴノリの世代交代は,一見,上述の同型世代交代に似るが,実際にはさらに複雑である。配偶体にできた卵と精子の合体により生じた接合子は,母体内で発芽して果胞子体と呼ぶ微細な体の世代となる。後にここに果胞子が形成され,これが体外に放出されて発芽すると,外見上配偶体と同形の四分胞子体に発達する。四分胞子体には減数分裂によって四分胞子がつくられ,発芽すると,そのうちの2個は雌性の,他の2個は雄性の配偶体にそれぞれ発達する。すなわち,テングサやオゴノリでは,配偶体,配偶体に内生する微細な果胞子体,および配偶体と同形の四分胞子体の順序で,三つの世代が循環する。紅藻のカギノリやフサノリも三世代植物であるが,四分胞子体が極端に小さい生活史をもつことで特徴づけられる。
化石の記録によると,藻類は約30億年前の先カンブリア時代にはすでに地球上に出現していたらしい。この時代の地層から発見された直径約20μmの球形のラン藻様の微化石Archaeosphaeroides larbertonensisが最古の藻類化石と考えられている。年代が下り約19億年前の地層からは現生のユレモなどに似たラン藻の化石が多数得られている。真核性の藻類の出現はそれよりかなり遅れたらしい。約9億年前の地層からは核やピレノイドをもつ細胞分裂中の緑藻と思われる化石が得られ,Glenobotrydionと名づけられている。紅藻のサンゴモ類,緑藻のカサノリ類,および車軸藻類は炭酸カルシウム(石灰)を,またケイ藻類はケイ酸をそれぞれ体に沈着するので化石として残りやすい。化石の記録から,サンゴモ類やカサノリ類は4億~5億年前のオルドビス紀に,車軸藻類は約4億年前のシルル紀にすでに生育していたことがわかる。興味あることに,ケイ藻類は単細胞性であるが,出現は遅く,白亜紀以降である。ケイ藻の化石はケイ藻土として多量に出現するが,これが見られるのはさらに年代の遅い第三紀と第四紀の新生代である。すなわちケイ藻の出現は今より約1億年前であり,3億~4億年前に出現した陸上植物よりケイ藻類ははるかに後出の生物であるといえる。また本来,南方系である緑藻類は北極にも生育し,緑藻類のうち10%が海水に,残り90%が淡水にみられる。この多様な生育場所をもつ緑藻類から,古生代オルドビス紀からシルル紀のころに,陸上植物が出現したといわれる。
藻類は有機物の生産者として水界の生態系において重要な役割を占めている。地球上の全植物の年間純一次生産量は170×109t(乾量)で,そのうち水界の植物の生産量は約1/3の55.5×109tであるという(ホイッタカーR.H.Whittaker,1975)。水界には種子植物も生育することを考慮に入れても,藻類が水界で果たす生態的役割がいかに大きいかがうかがい知れよう。なお,海藻の生産量はプランクトン性藻類のそれの約1/10であるという(ライザーJ.H.Ryther,1963)。しかし,海藻は沿岸帯に海中林や海中草原ともいうべき群落をつくり,沿岸性の魚貝類の生息場としてまた餌料植物として水産上重要な役割を果たしている。飼育実験によると,アワビが肉1kgを増量するのに褐藻カジメを約15kg摂取するという。プランクトン性の藻類や定着性の微細な藻類は稚魚貝や動物プランクトンなどの餌料として食物連鎖のうえで重要な位置を占める。ところで,ラン藻,ケイ藻,渦鞭毛藻などのプランクトン性藻類は環境が変化すると突然異常に大発生して,海では赤潮を,湖や池では水の華と呼ぶ現象を起こすことがある。赤潮や水の華は,水界の物理化学的性質をさらに急変させ,魚貝類を死滅させるなど,しばしば大きな被害をもたらす。
(1)食用 藻類はタンパク質と無機質を比較的多く含み,またビタミン類や脂質も含むので,健康保持の食品としての価値は高い。しかし,乾燥重量の約半分を占める多糖類の消化吸収率が,陸上植物に比べるとはるかに低いので,カロリー価は低い。藻類が整腸作用に効果があり,また美容食として優れた食品であるのはこのためである。最近,欧米でも海藻をsea vegetable(海の野菜)と呼ぶなど,健康食品として見なおす傾向にある。食用とするおもな藻類に紅藻のアサクサノリ,褐藻のモズク,コンブ,ワカメ,ヒジキ,緑藻のヒトエグサ,アオノリなどがある。
(2)寒天,アルギン酸,カラギーナン 紅藻のテングサ類,オゴノリ類からは寒天,褐藻のカジメ,アラメなどのコンブ科植物からはアルギン酸,紅藻ツノマタやスギノリ類からはカラギーナンがとれる。寒天はようかん,ゼリーなどの原料,ジャム,マーマレードなどの安定剤に使うほか,細菌の固形培養基の基質に使われる。アルギン酸はアイスクリーム,ゼリー,チョコレートミルクなど,多くの食品の安定剤に使われ,また薬品,乳化剤,洗剤,化粧品などの基剤にも使われ,用途が広い。このほかに織物用の経糸(たていと)のりや捺染のりにも多く使われる。欧米で生産の盛んなカラギーナンもアルギン酸と同じように,食品などの安定剤に使われるなど,広い用途をもっている。
(3)タンパク質資源 淡水藻の緑藻クロレラとラン藻スピルリナはタンパク質の含有量が多く,また生産性も高いので,最近では大量に培養され,粉末食品が作られている。
(4)駆虫剤 カイニン酸を含む紅藻マクリと,ドウモイ酸を含む紅藻ハナヤナギは優れた駆虫の効能をもつ。
(5)ケイ藻土 ケイ藻の化石の堆積物であるケイ藻土はろ過器のろ材,研磨材,断熱煉瓦,絶縁材料および緩下剤などに使われる。
(6)肥料,飼料 海藻は田畑の肥料として用いられたが,最近は少ない。ネンジュモやアナベナなど,ラン藻には空中窒素固定能をもつものがある。そこで,これらのラン藻を大量培養して水田の肥沃化を図る事業が,インドや中国で行われている。ヨーロッパでは古くから家畜の飼料として海藻を利用してきた。用いられる海藻はおもに褐藻コンブ科とヒバマタ科のもので,これらを粉末とし一般飼料に混ぜて与える。この結果,鶏卵や牛乳のヨード含有量の増加が認められている。
(7)エネルギー源 新しい試みとして,オオウキモを発酵させメタンガスを採り,これをエネルギー源にしようという研究がアメリカで行われている。
執筆者:千原 光雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
多様な分類群を含む植物の一群。一般に藻類という場合、海中や陸上の淡水域に生育する植物をさすが、なかには、汽水、湿地、氷雪上、あるいは温泉中などに生ずるものもあり、生育域はきわめて広い。
[吉崎 誠]
地球上の最初の生物の発現場所は太古の海中であったことはよく知られている。また、地球の地質年代でみると、古生代カンブリア紀以前に先カンブリア時代(約5億7500万年以前)というのがあるが、かつて、ここにアルゴンキアンAlgonkian代という区分が設けられていた。このアルゴンキアンの名はalgaeに由来するもので、藻類の時代であったことを意味している。実際、現在知られている生物化石中の最古のものは、藍藻(らんそう)植物門の種と考えられている(およそ27億年前)。藻類は、このように、他の生物群よりもはるかに長い歴史をもつ生物群であるため、形態の面からみると、真核をもたない単細胞体から、真核をもつ単細胞体、多細胞体まであり、きわめて変化に富んでいる。つまり、藻類には、形態進化の各段階が認められるわけである。
藻類中で進化したグループ(紅藻類、褐藻類と、緑藻類の一部)の体制は、一見、陸上植物に似ているが、多くの陸上植物で著明である茎・葉・根という体部の三分化はない。たとえ、外見は分化があるようにみえる藻類の場合でも、内部構造やその働きはどの体部においても大差がない。また、藻類を繁殖・生殖法の面からみると、単細胞の胞子をもって行うため、いわゆる花をつくることはない。このため、藻類は体制の面からは葉状植物の仲間、生殖法の面からは隠花植物の仲間とされてきた。ちなみに、藻類と菌界を構成する菌類とを比較した場合、両者は、「光合成色素をもち、炭酸同化能力のあるのが藻類、その能力のないのが菌類」という点で区別される。視点をかえていうと、「二酸化炭素CO2と水H2Oという無機物を材料にして糖類(ブドウ糖)という有機物をつくりだす能力のあるのが藻類、その能力のないのが菌類」ということになる。つまり、両者の相違は、独立(自家)栄養と従属(他家)栄養にあるといえる。この相違は、植物と動物を区別する際にまずあげられる主要相違点でもあるから、この面だけでみると菌類は動物に近いともいえよう。なお、単細胞体の藻類(たとえばミドリムシ類とか渦鞭毛(うずべんもう)藻類の仲間)では、同一個体が環境条件によって、有色・独立栄養をする場合もあれば、アメーバ状の無色体になり、従属栄養をする場合もあり、植物か動物かの判定が混乱しているものもある。ちなみに、魚貝類に被害を与える赤潮の場合では、植物か動物かの判定がむずかしい渦鞭毛藻類が大繁殖しているときに、とくに被害が大きくなりやすい。
[吉崎 誠]
陸上植物でみられる光合成色素類はクロロフィルa・b、カロチノイドであるが、藻類体内には、さらにクロロフィルc・dのほか、陸上植物よりも多様なカロチノイドが含まれる。また、藻類には、フィコエリスリン(紅藻素)、フィコシアニン(藍藻素)という色素タンパク(フィコビリン)を含むものもある。しかし、これらの色素類は全藻種に一様に含まれるというわけではなく、グループによって含有色素類の混合組成に違いがある。つまり、含有色素類の差違によって、藻体の体色、さらには光合成生産物や細胞壁物質などの含有多糖類の化学構造や物理的性状などに相違が出るわけである。最近では、研究の進展とともにこれらの相違が詳しく解明されてきたので、かつては形態的特徴に主眼が置かれていた藻類全体としての分類は、含有色素類や含有多糖類の異同に主眼が置かれるように変わってきている。なお、一部の藻類と一部の菌類とが共生して植物体をつくる地衣植物門があるが、これは、通常、独立の分類群とし、藻類中には入れない慣習となっている。また、電子顕微鏡による研究の進展とともに、藻類の極微構造(たとえば、胞子にある鞭毛の微細構造とか、細胞内での色素体の配列状況など)には、従来とは相違するグループのあることもわかってきている。
これまで述べてきた内容は、他の植物との類縁・系統関係、藻類内での相互の類縁関係という純植物分類学的立場での分類であるが、これとは違う観点から、伝統的に慣用化されている区別、呼称がある。すなわち、(1)生育水域の相違による、淡水藻fresh water algaeと海藻marine algaeの別、(2)水中での生育様式の相違による、プランクトン藻planktonic algaeと定着藻benthic algaeの別、(3)体制の相違による、単細胞藻unicellular algaeと多細胞藻multicellular algaeの別などである。
[吉崎 誠]
藻類の生育域は広く、種類によっては、80℃以上もある温泉域に生育しうるものもあれば(イデユコゴメCyanidium caldariumなど)、氷雪上に繁殖して人目をひく属種もある(コナミドリムシChlamydomonas nivalisなど)。前者の場合は温泉藻hot-spring algaeと総称され、後者の場合は氷雪藻cryo algaeと総称される。
藻類には、貝殻など石灰質の物の中に穿孔(せんこう)して生活するものもあれば(コンコセリスConchocelis)、石灰質を体表あるいは体内に沈着する属種もある。後者は一括して石灰藻calcareous algaeとよばれるが、なかには、熱帯海域のサンゴ礁構成にあたって重要な役割を果たすものもある。この仲間には、緑藻綱のカサノリ目Dasycladalesの属種と紅藻綱のサンゴモ科Corallinaceaeの属種とがある。これらの祖先型の化石は、ともに古生代、中生代に多く出現しており、当時は、現存種よりもはるかに多い属種が広範囲に分布していたと思われる。先カンブリア時代に出る藻類化石は、無核あるいは原核の生物とされる藍藻植物単細胞体ばかりであるが、両石灰藻のグループは、ともに真核をもち、その体制もかなり進化した形状を呈している。
珪藻(けいそう)は珪酸質の固い殻をもち、またハプト藻は石灰化した鱗片(りんぺん)で覆われている。地質時代に、これらの藻類が大繁殖していた地域では、これらの化石が珪藻土diatomiteとして残っている。石灰や珪酸を沈着しない藻類の体は、死ぬとただちに腐って分解してしまうか、崩壊してしまう。このため、藻類は生物進化のうえできわめて興味ある植物群であるが、祖先型がたどれる化石は、現在までのところ、まだみつかっていない。
単細胞性プランクトン藻類は、車軸藻綱と褐藻綱を除くすべての分類群にみられ、生育域は広く、多様である。なかでもプランクトン藻に近縁と思われるものにズーザンテラ(褐虫藻)Zooxantheraとよばれる単細胞藻群がある。これらは、造礁サンゴ虫の軟体部やシャコガイの外套(がいとう)膜の内部に共生している。サンゴ体やシャコガイの体色に変化が多いのは、この共生藻群と深くかかわっているとも考えられる。このほか、プロクロロンは、熱帯・亜熱帯に生育する群体ボヤの体内に生育しているし、緑藻綱と藍藻綱のいくつかの属種は、菌類と共生して地衣植物をつくる。
[吉崎 誠]
藻類には無性胞子と有性胞子をもって世代交代を行う属種が多い。しかし、藻類には進化段階の違う多くのグループが含まれるため、世代交代だけではなく、原始型からしだいに進化を示す多くの繁殖段階が認められる。一般に、植物体の一生涯は、栄養段階(無性世代)と生殖段階(有性世代)に分ける生育区分法(生活環)がよく使われるが、単細胞体生物にあっても、こうした区分法は適用しうると考えられる。たとえば、単細胞藻体に細胞分裂がおこって複数個体になるのも、単なる分裂とみるよりも、むしろ生殖の原始型とみるべきであろう。こうした細胞分裂によって生ずる子孫は、同じ遺伝因子をもつものだけであるから、栄養繁殖vegetative propagation、または無性生殖asexual reproduction、あるいはクローンclone繁殖と同じ範疇(はんちゅう)にあることとなる。これに対し、同一個体、あるいは別々の個体から出た二つの胞子が合一してつくる合一体が、さらに発芽して新個体を生ずる繁殖法を有性生殖sexual reproductionという。この場合、合一する個体や胞子はともに配偶子gameteとよび、合一の結果できるものを接合子zygoteとよぶ。有性生殖にあっては、それぞれの配偶子がもつ遺伝因子は同一ではない場合もあるため、接合子、あるいは新個体がもつ遺伝因子も、その両親のとは多少違うこととなる。これが、いわゆる雑種強勢hybrid vigor, heterosisとよばれる現象である。
陸上植物の繁殖法では、有性生殖が優勢、雌雄配偶子の相違が明瞭(めいりょう)、体部中の分化が明瞭、栄養部の一部に生殖部が生じ、生殖終了後は生殖部は消失するが、栄養部は生き残って多年生の寿命を保つというのが普通である。しかし、藻類にあっては、前述のように有性生殖と栄養繁殖・無性生殖とがあり、有性生殖の場合でも、配偶子の形状や接合子の形成過程にはさまざまな変化がある。藻類の繁殖を大まかにみると、単細胞藻群では栄養繁殖・無性生殖が優勢で、有性生殖はまれにおこるだけである。これに対して多細胞藻群では、無性と有性の生殖が同頻度でみられ、規則正しい世代交代が行われる場合が多い(なかには有性生殖だけがみられるグループもある)。なお、無性であっても有性であっても、その生殖胞子の形状には鞭毛をもって泳ぎ回る遊走胞子swarmer planosporeと鞭毛をもたない不動胞子aplanosporeの別がある。また、有性の配偶子では、合一する両者に形状の差がない(いわゆる雌雄の区別がつかない)同型配偶子isogameteと、大小の差が明確である異型配偶子heterogameteとがある。この差がさらに大きくなり、雌性が不動になったのが卵である。生殖胞子の形成は、一時期におこるものと、一定の間を置いておこるものとがある。生殖を終了したあと個体が消失していくものを一年生annualとよび、栄養部と生殖部の分化がやや明瞭になり、生殖終了後も栄養部が生き残るものを多年生perennialとよんでいる。しかし、藻類の場合、多年生といっても、そのほとんどは5、6年以下の寿命で、陸上植物のように数十年から数千年という長い寿命のものはない。また、藻類の生殖胞子は、母体を離れたあと、自力で新個体に成長していく場合がほとんどである。陸上植物では、雌性配偶子は母体内にとどまったままで雄性と合一し、しばらくは母体の保護を受け、ある程度まで成長したあとに母体から離れ、新個体になることが多いが、藻類ではきわめてまれである。
[吉崎 誠]
藻類の体制は、陸上植物の体制に比べると簡単であるが、他の植物門のなかにも類似の形態を示すものがある。そのため、系統を考える場合には、色素、葉緑体構造、遊走細胞(生殖胞子)の構造などから類縁関係を考察することが多い。陸上の諸植物門と系統・進化関係にあるのは、クロロフィルaとbとをもつグループ(緑色植物のプラシノ藻、緑藻、車軸藻)である。しかし、クロロフィルaとcとをもつグループと、クロロフィルaとフィコビリンとをもにグループとは、現在も水中生活にとどまっている。藻類のなかで、体制面だけからみると、褐藻類がもっとも進化し、生殖面だけからみると、紅藻類がもっとも進化したグループと考えられる。
[吉崎 誠]
『新崎盛敏他著『海草・ベントス』(1976・東海大学出版会)』▽『瀬川宗吉著『原色日本海藻図鑑 増補版』(1977・保育社)』▽『広瀬弘幸・山岸高旺編『日本淡水藻図鑑』(1977・内田老鶴圃)』▽『西沢一俊・千原光雄編『藻類研究法』(1979・共立出版)』▽『横浜康継著『海藻の謎――緑への道』(1982・三省堂)』▽『千原光雄編『学研生物図鑑 海藻』(1983・学習研究社)』
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…アルプスなど山岳地帯の人々は,春の山野に萌える山菜を好んで利用している。 藻類は,アサクサノリのように栽培的に生産されるもののほかは,利用はすべて採集による。緑藻類(ヒトエグサ,スジアオノリ,カワノリ,クロレラなど),褐藻類(モズク,マツモ,マコンブ,ミツイシコンブ,トロロコンブ,ワカメ,ヒジキなど),紅藻類(アサクサノリ,スサビノリ,チシマクロノリ(岩海苔),フクロフノリ,マフノリなど),ラン藻類(スイゼンジノリ,カワタケなど)がある。…
…土壌中に存在する微生物で,細菌,放線菌,糸状菌,藻類,原生動物などをいう。肥沃な表土には,土壌1g当り細菌数が数十億,糸状菌の菌糸長が数百m,微生物の生体重が土壌有機物量の数%に達することがある。…
※「藻類」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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