垂乳根の(読み)タラチネノ

デジタル大辞泉 「垂乳根の」の意味・読み・例文・類語

たらちね‐の【垂乳根の】

[枕]「母」「親」にかかる。語義・かかり方未詳
「―母が問はさば風とまをさむ」〈・二三六四〉
「―親のいさめし転寝うたたねは」〈拾遺・恋四〉

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精選版 日本国語大辞典 「垂乳根の」の意味・読み・例文・類語

たらちね‐の【垂乳根の】

語義未詳。
① 「母」にかかる。かかりかた未詳。
万葉(8C後)三・四四三「帯乳根乃(たらちねノ) 母の命(みこと)斎瓮(いはひへ)を 前に据ゑ置きて」
② (①の転用で、中古以降の用法) 「親」にかかる。
※新撰万葉(893‐913)下「足千種之(たらちねの)親もつらしなかくばかり思ひに迷ふ世にとどめたる」
[語誌](1)「たらちねの」の形の用例がもっとも多く、「たらつねの」「たらちし」「たらちしの」「たらちしや」は、「万葉集」では一例ずつなので、「たらちねの」がもとの形かと思われる。
(2)「万葉集」に、「ち」に「乳」の字をあてたものが半分近くあるので、語義を、「垂乳ね」(「ね」は女性を表わす、または尊称)とみる説が古来あるが確証はない。なお、「たら」を足る意として、養う意の日足らすと見る説もあり、「ち」を乳と見ることを否定して「足らす」の変化したものとし、満ち足りる意のほめことばとする説もある。
(3)「万葉集」に二七例あり、二六例が「母」にかかる枕詞である。それが中古になると、「親」にかかるようになった(もっとも、実質的にその親は母親であることが多い)。一方で、「母」だけを意味する「たらちめ」という語と、それに対する「父」の意の「たらちを」という語もできた。

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