日本大百科全書(ニッポニカ) 「塩素ガス中毒」の意味・わかりやすい解説
塩素ガス中毒
えんそがすちゅうどく
塩素ガスの吸入によっておこる中毒症状。塩素ガスは刺激臭のある黄緑色のガスで、塩化ビニル製造、紙やパルプなどの漂白、水の殺菌や消毒、金属精錬などに使用される。生体に対しては強い酸腐食作用をもち、急性中毒では、目、鼻、のどの灼熱(しゃくねつ)感、咳(せき)、胸部圧迫痛などで始まり、呼吸困難、チアノーゼ、肺水腫(すいしゅ)をおこす。塩素ガスに繰り返しさらされると慢性中毒になり、気管支炎、鼻粘膜の炎症や潰瘍(かいよう)をおこしやすく、また、歯牙(しが)酸食症、耳の周辺や顔面の皮脂腺(ひしせん)の炎症(塩素痤瘡(ざそう))、肝臓障害、腎臓(じんぞう)障害などが注意されている。労働衛生上の塩素ガスの許容濃度は1ppmである。なお、救急処置としては、暴露の中止後、被災者を新鮮な空気中に搬出し、心停止には心臓マッサージと人工呼吸を始め、呼吸があれば希アンモニア水をしませた脱脂綿を短時間ずつかがせるなど、呼吸中枢刺激剤の蒸気吸入を行うほか、酸素吸入も必要である。
[重田定義]