潰瘍(読み)カイヨウ

デジタル大辞泉 「潰瘍」の意味・読み・例文・類語

かい‐よう〔クワイヤウ〕【潰瘍】

皮膚粘膜などの表層がただれて崩れ落ち、欠損を生じた状態

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精選版 日本国語大辞典 「潰瘍」の意味・読み・例文・類語

かい‐ようクヮイヤウ【潰瘍】

  1. 〘 名詞 〙表面あるいは腔内面の一部が深部まで欠損した状態。粘膜層、角膜上皮層、皮膚表皮層などの組織にみられ、壊死(えし)をまず起こし、これがはがれたり、溶けたりすること。
    1. [初出の実例]「潰瘍(クヮイヤウ)の出血を抑へ付けるといふ療治法」(出典:思ひ出す事など(1910‐11)〈夏目漱石〉一三)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「潰瘍」の意味・わかりやすい解説

潰瘍
かいよう

生体が外側あるいは外側と連絡している腔(こう)に面している部分、すなわち皮膚や粘膜の一部に物質欠損を生じた場合、これを一般に潰瘍とよんでいる。ただし、皮膚の欠損がごく表層に限られていたり、粘膜の欠損が粘膜筋板を越えない場合は、びらん(糜爛)とよび、潰瘍とは区別されている。潰瘍は、組織の一部におきた欠損によって、その部分に壊死(えし)(局所的な組織の死)がおこり、それが脱落あるいは融解して生ずるものである。壊死の原因には、血液の循環障害による局所的な栄養障害(梗塞(こうそく))のほか、高熱・低温などの温度作用、薬物・毒物の作用、機械的な作用、圧迫による障害、電流あるいはレントゲンラジウムなどの放射線の作用、神経の障害(レイノー病など)、腺(せん)分泌ないしは排泄(はいせつ)物が誤って組織内に流出した場合など、さまざまな因子があげられる。

 臨床的には、消化管に潰瘍を形成する諸疾患が重視されている。胃および十二指腸の潰瘍が代表例であり、急性のものは多発することが多く、尿毒症、頭部外傷後、あるいは広範な火傷などに合併してみられる。一方、慢性のものは潰瘍の周辺に結合組織線維が増えるため、硬く盛り上がった状態になるので、胼胝(べんち)性潰瘍とよばれたり、胃液の消化作用が重要な関係を有するとの考えから、消化性潰瘍とも呼び習わされている。胃および十二指腸の慢性潰瘍は、出血、穿孔(せんこう)、狭窄(きょうさく)、癌化(がんか)をおこすことが知られており、その原因としては、胃液の消化説以外に、血行障害説、胃炎説、神経ストレス説、内分泌説などが提唱されている。胃潰瘍は40歳代の、十二指腸潰瘍は20歳代の男性に好発する疾患である。腸チフス、腸結核症は小腸、とくに回腸に潰瘍を形成する疾患であり、細菌性赤痢(せきり)、アメーバ赤痢は大腸に潰瘍をつくる病気として知られている。さらに特殊なものとして、小腸の回腸末端に小さい潰瘍を伴う限局性回腸炎(クローンCrohn病)と、大腸全体に潰瘍が多発、癒合する潰瘍性大腸炎がある。

[渡辺 裕]

 限局性回腸炎と潰瘍性大腸炎はともに原因不明の病気で、国の特定疾患治療研究事業対象疾患に指定され、炎症性腸疾患(IBD)ともよばれる。

[編集部]

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百科事典マイペディア 「潰瘍」の意味・わかりやすい解説

潰瘍【かいよう】

皮膚・粘膜の一部に生じる深い欠損。浅い場合は糜爛(びらん)という。種々の原因による壊死(えし)の脱落によって起こる。結核性・赤痢性など細菌感染によるもの,床ずれのような局所血行障害によるもの,放射線や石炭酸のような物理的・化学的外力によるもの,胃潰瘍十二指腸潰瘍のように消化性潰瘍と呼ばれ,直接的には胃液の消化作用の亢進によるとされているものなどがある。
→関連項目カポジー水痘様発疹クローン病小児心身症小児成人病ツツガムシ病手足口病乳癌発疹皮膚癌扁平コンジローマまめ

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改訂新版 世界大百科事典 「潰瘍」の意味・わかりやすい解説

潰瘍 (かいよう)
ulcer

壊死をおこした組織が融解したり,剝離(はくり)したあとに,臓器の表面にできた組織欠損部をいう。ごく浅いものは糜爛(びらん)といわれる。潰瘍ができる場所は,壊死物質が容易に除去される部位,すなわち,皮膚,鼻口腔粘膜,角膜など体表に接する場所や,消化管,気道,尿路,血管などの管腔臓器の内腔面である。肝臓や腎臓などの実質臓器の中にできた壊死巣の場合は,壊死物質の排除が困難であるため,その場所にたまり,膿瘍ができる。潰瘍の病因には,物理的作用,組織損傷性の化学物質,微生物による炎症,循環障害,神経性因子が挙げられる。胃潰瘍は消化性潰瘍といわれるが,胃酸分泌過多,胃壁を保護する粘液の減少,それにストレスなどの神経要因が加わって,胃酸による粘膜の自己消化が進行し,潰瘍形成に至る。胃潰瘍と鑑別すべきものに,胃癌の潰瘍化がある。これは,胃癌の中心部分が循環障害のために壊死に陥り自潰して潰瘍をつくったものである。慢性潰瘍の組織像は,最表面から,壊死組織と好中球浸潤層,フィブリノイド変性層(胃潰瘍にみられるもので,胃酸による変化),肉芽組織層,瘢痕(はんこん)層となっている。急性潰瘍では瘢痕層を欠く。潰瘍の辺縁には再生性の上皮がある。癌にできた潰瘍は,最表層の壊死層の下は癌組織であり,潰瘍の辺縁も癌組織でできている。内視鏡やX線検査をしても肉眼観察では区別ができないときは,組織を採って顕微鏡検査をする必要がある。潰瘍は元来,良性の病気であるから,放置しても,上皮が潰瘍面をすっかり覆って,治癒するものであるが,潰瘍があまりに大きくて上皮再生が期待できないときは,手術が必要となる。慢性の潰瘍があるとき,辺縁上皮の壊死と再生を繰り返しているうちに,胃や皮膚では上皮細胞の癌細胞化がおこり,癌が発生することがあるといわれている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「潰瘍」の意味・わかりやすい解説

潰瘍
かいよう
ulcer

皮膚や粘膜面における限局性の組織欠損をいう。横や深部の広がりはまちまちで,浅いものはびらんという。眼の角膜,消化管,血管に生じやすい。胃腸では,潰瘍が深くなって穿孔を起したり,大出血を伴ったりする。

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栄養・生化学辞典 「潰瘍」の解説

潰瘍

 消化管の組織が欠損した状態で,表面の粘膜のみが欠損したびらんと区別する.胃潰瘍,十二指腸潰瘍,結腸潰瘍などと使う.皮膚についてもいう.

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普及版 字通 「潰瘍」の読み・字形・画数・意味

【潰瘍】かいよう

潰癰。

字通「潰」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の潰瘍の言及

【発疹】より

…欠損部は表皮が再生して,瘢痕(はんこん)を残すことなく治る。(3)潰瘍ulcer 皮膚の欠損が真皮にまで及ぶもので,治るときには欠損部が肉芽組織により埋められ瘢痕を残す。(4)膿瘍abscess 真皮内あるいは皮下に膿がたまった状態。…

【アフタ】より

…古くヒッポクラテスの時代には灼熱および潰瘍形成を意味する言葉であったが,現在では舌,口唇,ほおの粘膜などの口腔粘膜に発生する直径10mm以下の孤立した痛みのある小潰瘍に対する症状名として用いられる。潰瘍は境界が明りょうな円形あるいは楕円形で,黄白色の膜で覆われ,辺縁は隆起しない。…

【発疹】より

…欠損部は表皮が再生して,瘢痕(はんこん)を残すことなく治る。(3)潰瘍ulcer 皮膚の欠損が真皮にまで及ぶもので,治るときには欠損部が肉芽組織により埋められ瘢痕を残す。(4)膿瘍abscess 真皮内あるいは皮下に膿がたまった状態。…

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