多武峰猿楽(読み)とうのみねさるがく

改訂新版 世界大百科事典 「多武峰猿楽」の意味・わかりやすい解説

多武峰猿楽 (とうのみねさるがく)

奈良県多武峰(古くは〈たんのみね〉)の談山神社に勤仕した猿楽能。談山神社は明治以降の名で,古くは神仏混交で妙楽寺と寺社総合して単に多武峰と呼ばれることが多かった。世阿弥の《申楽談儀(さるがくだんぎ)》,金春(こんぱる)禅竹の《円満井(えんまい)座壁書》《明宿(めいしゆく)集》には,多武峰参勤が大和猿楽四座の義務であったことが述べられており,例年10月10日から16日まで催される維摩(ゆいま)八講会に付随して,13,14日に猿楽が演じられ,八講猿楽と呼ばれた。《多武峰年中行事》によると,9月11日の御霊会,9月23日の祭礼にも能が行われている。八講猿楽は多武峰様と形容されるように,他に見られない特色をもち,観阿弥,世阿弥父子による大成以前の能の古態をしのばせ,多武峰と猿楽の結びつきの古さを物語っている。その内容は《式三番》(《翁》)の〈法会之舞〉を四座の権守(ごんのかみ)が立合(たちあい)で舞うこと,実馬・甲冑姿で演ずる具足能が行われたこと,各座が新作を競演することなどであった。また世阿弥の《風姿花伝》,禅竹の《明宿集》に見える〈六十六番猿楽〉が,早くから多武峰で演じられていたことが《享禄三年二月奥書能伝書》(観世新九郎家文書)によって知られる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の多武峰猿楽の言及

【大和猿楽】より

…また外山座と結崎座の歴史がある程度明確になってくるのは,〈山田みの大夫〉なる猿楽の孫の宝生大夫,生市(しよういち),観世の3兄弟のうち,長兄の宝生大夫が外山座の,末弟の観世(観阿弥)が結崎座のそれぞれ大夫となった南北朝ころからである。〈山田みの大夫〉は桜井市山田にあった猿楽(山田猿楽)で,多武峰参勤猿楽(多武峰猿楽)だったらしい。結崎座では,畿内にいながら多武峰への参勤を怠った座衆は,座から追放という厳重な罰則があったが,結崎座と多武峰との緊密なかかわりはこの山田猿楽以来のものと推定される。…

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