奈良県桜井市南西部,寺川上流一帯の名称。狭義には御破裂(ごはれつ)山(破裂山とも。619m)という竜門山地中部のひとつの山の名だが,その南麓一帯をいう。また多武峯寺の略称。
《日本書紀》斉明2年是歳条に〈田身嶺(たむのみね)に,冠らしむるに周(めぐ)れる垣を以てす。(中略)嶺の上の両(ふた)つの槻(つき)の樹の辺に,観(たかどの)を起(た)つ。号(なづ)けて両樹(ふたつき)宮とす〉とあるのが地名の初見で,高所に営まれた両槻宮は,道教の影響があるのではないかとされる。多武峰が一躍著名となるのは,藤原鎌足の墓所が営まれたことによってである。鎌足の子の僧定恵(じようえ)は,678年(天武7)ころ(異説もある)亡父の遺骸を摂津国安威(あい)山から当山に移して十三重塔婆(大織冠廟)を建立したといわれ,ついで塔の南に3間四面の堂を建てて妙楽寺と号し,さらに塔の東に方3丈の聖霊院を建てて鎌足の木像を安置したという(《多武峯縁起》《多武峯略記》)。藤原氏の発展とともに寺観が整えられ,寺領荘園の設定もすすめられた。多武峯寺は,これら一山の総称である。また926年(延長4)には鎌足に談峰権現(のち談山明神)の神号が与えられて,神道の性格をあわせもった信仰が形成された。
ところで,平安時代中期から多武峯寺は延暦寺末寺となり,そのため興福寺と対立,1081年(永保1)以来たびたび両寺衆徒の対立がおこり,多武峯寺はしばしば炎上した。そのことが多武峯寺の僧兵による武力強化の大きな要因をなしたかと思われ,以後中世にかけて,大和国人とも連携を深めた。国人と関係の深い多くの小院も建立され,多武峯寺は,南大和の一大勢力を形成した。さらに天下の変事に先立って山上が鳴動し鎌足の木像が破裂する(大織冠破裂)という信仰が生まれ,898年(昌泰1)以来1607年(慶長12)まで37回破裂し,そのつど藤原氏氏長者(うじのちようじや)に強訴(ごうそ)などを行い,多武峯寺は藤原氏や朝廷に対しても独自の位置を占めた。1585年(天正13)豊臣秀吉は多武峯寺の武装を解除して鎌足木像も郡山城下に移したが,90年帰山を許した。近世は寺領約3000石,寺坊42をかぞえて繁栄をとりもどし,門前町も形成された。本居宣長は《菅笠日記》に参詣記をとどめている。明治の神仏分離により,多武峯寺は談山(たんざん)神社となった。
→談山神社
執筆者:熱田 公
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奈良県中北部、桜井市の一地区。竜門(りゅうもん)山地中央部の御破裂山(ごはれつさん)(618メートル)南斜面一帯の地。山腹に藤原鎌足(かまたり)を祀(まつ)る談山神社(たんざんじんじゃ)がある。江戸時代まで多武峰寺と総称され、神仏両様の形式であったが、明治維新後、談山神社となった。天下異変のとき御破裂山が鳴動し、鎌足の木像が破裂するといわれている。神社周辺は紅葉の名所として知られる。JRおよび近畿日本鉄道桜井駅から談山神社までバスで25分。
[菊地一郎]
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…これは宮廷におけるものだが,以後の延年資料は圧倒的に寺院におけるものが多い。平安末期から鎌倉,室町にかけて延年が催された寺院は,畿内では興福寺,東大寺,法隆寺,薬師寺,多武峰(とうのみね)(古くは〈たんのみね〉),比叡山,園城寺,醍醐寺などであり,地方では日光輪王寺,平泉の中尊寺,毛越(もうつ)寺などであるが,とりわけ南都の延年が歴史も古く,かつ盛大であった。たとえば,興福寺の延年は維摩会(ゆいまえ)に付属する催しであったが,白河院の時代にはすでに行われていたものと思われる。…
…なお《万葉集》は2首,《歌経標式(かきようひようしき)》は1首の,鎌足作という歌を収めている。【青木 和夫】
[伝承]
藤原鎌足は,その官職名をとって大織冠(たいしよくかん∥たいしよかん)の名で親しまれているが,多武峰(とうのみね)の聖霊院(現在の談山(たんざん)神社)にまつられている。《談峯記》によると,定恵和尚が阿威山から談峯(多武峰)へ改葬して,墓上に十三重塔を建て,その東に御殿を造り,父鎌足の霊像を安んじたのが聖霊院の始まりとされる。…
※「多武峰」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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