立合(読み)たてあわす

精選版 日本国語大辞典 「立合」の意味・読み・例文・類語

たて‐あわ・す ‥あはす【立合】

〘他サ下二〙
戦いをまじえる。交戦する。
太平記(14C後)一六「一立合(ひとたてあは)せも立合はせず、南面の長坂を福岡までこそ引きたりけれ」
牛車を立てるとき、二台を組み合わせるようにする。
落窪(10C後)二「男車の交らひもうとき人にはあらで、親しうたてあはせて」
③ 戸を両方から寄せて閉じる。
※応永本論語抄(1420)郷党第一〇「中門とは、門の真中には非ず。〈略〉両の扉をたてあはする所也」
④ いけ花で、別種の花や木を一つの花瓶にいけて構成する。
仙伝抄(1445)「ことに前の三ぼくと四草と、ゆめゆめたてあはせぬ事也」
⑤ 二つのものを比較する。くらべる。
御伽草子鴉鷺合戦物語(室町中)「しかりといへども非をたてあはするに打擲の咎いささか重し」

たち‐あわ・せる ‥あはせる【立合】

〘自サ下一〙 たちあは・す 〘自サ下二〙
勝負をいどむ。立ち向かう。
※太平記(14C後)八「敵是に立合せんと馬を西頭(にしがしら)に立て相待処に」
② そこに居合わせる。
※歌舞伎・心謎解色糸(1810)四幕「立合(タチアハ)せられたこそ幸ひ、何であらうと、五平太さんの所へ行て」

たち‐あわせ ‥あはせ【立合】

〘名〙
相撲行司(ぎょうじ)
内裏式(833)七月七日相撲式「立合等、各立幕北頭
② そこに居合わせること。
※歌舞伎・名歌徳三舛玉垣(1801)三立「何かに付て邪魔になる惟仁方の立合せ」

たて‐あい ‥あひ【立合】

〘名〙
① はりあうこと。抵抗して戦うこと。
義経記(室町中か)八「寄手三万騎に、城の内はわづか十騎ばかりにて、何ほどのたてあひせんとて舞ひ舞ふらん」
鉱脈

たて‐あ・う ‥あふ【立合】

〘自ハ四〙 はりあう。たてつく。抵抗する。
平家(13C前)六「おもひもまうけずあはてふためきけるを、たてあふものをば射伏せ、きり伏せ」

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デジタル大辞泉 「立合」の意味・読み・例文・類語

たち‐あい〔‐あひ〕【立(ち)合(い)】

双方から出て向かい合うこと。また、出あって勝負を争うこと。試合。「真剣での立ち合い
相撲で、両力士が仕切りから立ち上がる瞬間動作。「立ち合いから一気に押し出す」
田楽猿楽などで、競演すること。同じ曲を数人が舞う場合と、別曲を一番ずつ舞う場合とがあった。
江戸幕府の評定所の定日会合の一。寺社・町・勘定の三奉行のほか、大目付目付が出席し、評議する。

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改訂新版 世界大百科事典 「立合」の意味・わかりやすい解説

立合 (たちあい)

猿楽,田楽(でんがく)などで競演すること。2座または2者が別々の曲を出して競う場合と,同一曲を相舞(あいまい)で競う場合があった。古くから行われており,廃曲の能《舞車(まいぐるま)》は,東西に二つの舞車(祭礼の山車(だし))を仕立て,その上で別曲を演じるという趣向である。世阿弥の《風姿花伝(ふうしかでん)》には,猿楽の〈勝負の立合の手立て〉が,《申楽談儀(さるがくだんぎ)》には立合の心得などが述べられている。同じ《申楽談儀》に,田楽の本座の一忠(いつちゆう)と新座の花夜叉が《恋の立合》の曲を競ったとあり,この曲が立合用の作品であったことがわかる。また《とらうきやうの立合》も,猿楽か田楽かは不明であるが立合用の曲であった。1429年(永享1),室町御所笠懸の馬場で行われた能は,観世元雅音阿弥(おんあみ)の座対宝生座と十二五郎座の立合能であった。多武峰(とうのみね)猿楽では参勤の大和猿楽各座が新作の演目を競い,また四座立合(相舞)の《翁》が演じられた。現在行われている《翁》の異式《弓矢ノ立合》《船ノ立合》は,シテ方3流の大夫,またはそれに準ずる役者が相舞するもので,地謡(じうたい)は3流の連吟で行われる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「立合」の意味・わかりやすい解説

立合
たちあい

(1)猿楽(さるがく)、田楽(でんがく)の芸の一つ。「立逢」とも書いた。世阿弥(ぜあみ)の『申楽談儀(さるがくだんぎ)』に「立合は、幾人(いくたり)もあれ、一手なるべし」とあり、同じ謡・囃子(はやし)にあわせ同じ動作で舞ったらしい。そこで芸の優劣も競ったが、『文安(ぶんあん)田楽記』など田楽の上演記録によると、能に先だって演じられているので宗教的意味もあったかと思われる。文献によると数曲の立合芸のあったことが知られるが、いまに伝えられているのは「弓矢立合」「船の立合」だけである。(2)猿楽、田楽の上演形態。異座・異流の役者がそれぞれの曲を演じる、あるいは一曲を共演することによって芸を競う上演法。能楽史を通じ今日まで往々行われてきたが、それが一座または一役者の将来を定めるほどの重みをもったのは室町前期である。世阿弥はことに『風姿花伝(ふうしかでん)』で立合を重視し、「勝負の立合」「立合勝負」の用語もみえ、相手方を「敵人(てきじん)」「敵(かたき)」などといっているので、観客の漠然とした優劣の印象ではなく、だれかによって明確な勝負の判定が下されたものと考えられるが、詳細は不明である。

[小林 責]

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世界大百科事典(旧版)内の立合の言及

【行司】より

…職業相撲で軍配うちわを持ち,東西の力士を立ち合わせ,勝負の判定をし,勝力士に軍配をあげ勝ち名のりをさずける役目。平安時代の宮中儀式〈相撲節会(すまいのせちえ)〉には勝負を裁定する中立の行司役はなく,〈立合(たちあわせ)〉という進行係が,左近衛,右近衛から2人ずつ出場しただけである(後世江戸時代の相撲伝書に行司開祖を平安時代におくのは誤り)。鎌倉時代《吾妻鏡》に見える相撲奉行も武将がつとめ,相撲大会の監督で行司役はいなかった。…

※「立合」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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