改訂新版 世界大百科事典 「大名茶」の意味・わかりやすい解説
大名茶 (だいみょうちゃ)
江戸時代の大名によって担われた茶の湯。桃山時代の茶道の発展は,大名,公家,町人,僧侶など幅広い支持層をもったが,江戸時代になって各身分差が厳重になるとともに,それぞれの担い手の層によってその茶道の性格も微妙な差異を見せるようになった。《清巌禅師茶事十六ヶ条》に〈大名有力の茶〉という語があり,町人の茶に対する大名の茶というタイプが意識されている。大名茶といえば歴代徳川将軍の茶道指南とされる古田織部,小堀遠州,片桐石州ら大名茶人の茶風を指すが,織部にはかぶき者的な性格があって大名茶と性格を異にする。遠州,石州の茶は封建社会を支える分限思想や儒教道徳的な徳目をその茶道思想に含み,好みも均衡のとれた洗練度の高い美しさを見せ,また名物道具を中心とする書院台子の茶の伝統をその点前に包含するなど,大名の趣味としての要件を備えているといえよう。ことに石州の流儀は広く武士階層に広がり,江戸時代後期に至って松平治郷(まつだいらはるさと)(不昧),井伊直弼(いいなおすけ)などの有力な大名茶人を輩出させた。
執筆者:熊倉 功夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報