改訂新版 世界大百科事典 「大天」の意味・わかりやすい解説
大天 (だいてん)
部派仏教時代の大衆(たいしゆ)部の思想家。生没年不詳。サンスクリットでマハーデーバMahādevaという。アショーカ王の子マヒンダ(前3世紀)の師で,アショーカ王が師のモッガリプッタ・ティッサの提唱にしたがい,インド各地に仏教伝道師を派遣したとき,マヒサマンダラMahisamaṇḍala(ナルマダー川の南方あたり)に赴いたとされる。彼は大衆部に近い思想をもっていたので,彼の弟子たちは大衆部の一支派である制多山(せいたせん)部を形成したという。また別に,大天自身が仏滅200年ごろに五ヵ条の新説(五事)を唱えて制多山部を分立させたとする文献もある。この大天の五事は阿羅漢の悟りを低くみるもので,阿羅漢にも誘惑,無知,疑いがあるなどとする立場であるが,大天個人の説というより,大衆部系に一般的な思想傾向とみるべきである。
執筆者:田中 教照
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報