日本大百科全書(ニッポニカ) 「大悪党」の意味・わかりやすい解説
大悪党
だいあくとう
Historia del gran tacaño
スペインの作家ケベードの長編小説。正式の題名を『放浪児の手本、大悪党の鏡、ドン・パブロスとよばれる騙(かた)りの生涯』というピカレスク(悪漢)小説。出版は1626年だが、1603年ころの起筆と思われる。床屋で泥棒の子に生まれたパブロスが、貴族の子弟の従者、ならず者、役者、乞食(こじき)などの生活を経験したすえ、新しい生活を求めてアメリカ渡航を考えるまでの話が、ことば遊びと奇想に満ちた文体で描かれている。ピカレスク小説としてはもっとも完成度の高い作品の一つ。主人公の語る遍歴談は同種の作品に比べて、きわめて冷笑的でペシミスチックである。
[桑名一博]
『桑名一博訳『大悪党』(『世界文学全集6 悪漢小説集』所収・1979・集英社)』