奉・献(読み)まつる

精選版 日本国語大辞典 「奉・献」の意味・読み・例文・類語

まつ・る【奉・献】

〘他ラ四〙 (「まつる(祭)」と同源)
[一]
① 「やる(遣)」「おくる(送)」の謙譲語で、その動作の対象を敬う。さしあげる。献上する。
古事記(712)中・歌謡「酒(くし)の司(かみ) 常世にいます 石立たす 少名御神の 〈略〉麻都理(マツリ)(こ)し 御酒ぞ」
② (下位者のさし上げるものを上位者が用いるところから、直接上位者の動作を表わすのに用いて) 飲食するのをいう尊敬語。めしあがる。
※続日本紀‐天平一五年(743)五月・歌謡「やすみしし(わ)ご大君は 平らけく 長く坐(いま)して 豊御酒(とよみき)麻都流(マツル)
③ (尊敬語の用法を転用して) いやしめや、ののしりの気持を込めて、「する(為)」「言う」などの意にいう。
浮世草子御前義経記(1700)六「あしくよって怪我まつるな」
[二] 補助動詞として用いる。他の動詞に付いて、その動作の対象を敬う謙譲表現を作る。…申しあげる。「つかえまつる」の形が多いが、これは一語化して用いられた。→つかえまつる
仏足石歌(753頃)「釈迦の御足跡(みあと) 石に写し置き 敬ひて 後の仏に 譲り麻都良(マツラ)む 捧げまうさむ」
[語誌](1)同じく謙譲の補助動詞の用法をもつ「たまふ」(下二段)との違いについて、「たまふ」は「…させていただく」の意であり、「まつる」は「…してさし上げる」の意であるという。
(2)(一)①の意から(二)の補助動詞の用法が生じることは「たてまつる」と同様である。補助動詞としての「たてまつる」は上代においては用例がほとんど見出されないが、平安時代以降は「まつる」が衰退して行き「たてまつる」がもっぱら用いられるようになる。

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