日本大百科全書(ニッポニカ) 「宗教民俗学」の意味・わかりやすい解説
宗教民俗学
しゅうきょうみんぞくがく
folklore of religion
宗教現象を民俗学の立場から解明する学問。民俗学は、多民族学である民族学に対し、一国ないし単民族学をさしていう。研究の主対象となる口頭伝承・神話・祭り・歌謡・迷信などは、いずれもいまなお民間に根強く沈潜して、機能し続ける自然信仰・精霊信仰などの原始宗教の残存形態であり、また仏教、キリスト教などの教祖・教義・教団組織をもつ成立宗教との接触によってその影響下に成立する習合形態でもある。とくに後者は民間信仰とよばれる。成立宗教が土着化の過程で在地の原始信仰の残存である民俗宗教と接触するときに、仏教を例にとると、在地民俗に傾斜して自己を見失っていく「仏教の民俗化」と、仏教が在地民俗に意味づけを与えて取り込んでいく「民俗の仏教化」の2方向が認められる。民間信仰とは、このような土着化の過程のなかで民間の基層部に沈殿し堆積(たいせき)されたものであり、教祖・教義を欠き地域共同体の伝承的な規制に基づいて担われ、継承されていく共同祭祀(さいし)・集団信仰である。宗教民俗学はその主領域となる民間信仰をかかる2方向でその習合過程をとらえ、その総合化によって成立宗教と接触する以前の民俗の原型に遡及(そきゅう)することを目ざす。民俗学と宗教学の中間にあって、両者に寄与する学問的位置にある。
[藤井正雄]
『堀一郎著『民間信仰』(1951・岩波書店)』▽『堀一郎著『民間信仰史の諸問題』増訂版(1971・未来社)』▽『桜井徳太郎著『民間信仰』(1966・塙書房)』▽『桜井徳太郎著『日本民間信仰論』増訂版(1970・弘文堂)』