改訂新版 世界大百科事典 「導入育種」の意味・わかりやすい解説
導入育種 (どうにゅういくしゅ)
introduction breeding
品種改良の手法の一つ。作物・家畜の新しい品種を外国から導入してそのまま利用するか,あるいはこれをもとにして自国の風土に適した品種を選びだす操作をいう。新しく外国の作物品種を導入するときには,とくに随伴する新しい病原菌や害虫を持ちこまないように,まず隔離栽培をして検定を厳重に行い,安全なものだけを普通畑に移し,品種間の比較試験を実施する。同一の品種でも多数の個体を栽培すると,原産地とは風土の環境条件が著しく違うために,これまでに目だたなかった遺伝変異が現れてくることがある。そこで導入育種では分離育種法の選抜方法を利用し,品種系統間・個体間の検定を十分に行い,良いものを選抜し,悪いものをとり除く。選抜した品種が原品種と著しく異なった特性を示す場合には新品種名をつけ,普及に移す。こうしていったん導入が成功すると,その国の作物生産の向上に直接寄与するばかりでなく,さらに各種の品種改良の供試材料として利用されることも多い。
日本で栽培される作物および飼養される家畜はほとんど外国由来のものである。したがって,まず種を対象とした導入育種が歴史の各時代を通じて重要な役割を果たしてきた。近世以降も,江戸時代のサツマイモ,明治時代の果樹・野菜類などの導入があげられる。リンゴ,ブドウなどは明治に入ってから導入された品種群が,土着のものよりも優勢になった事例とされる。ごく最近導入された例としては甘味資源のステビアやいわゆる中国野菜がある。
執筆者:武田 元吉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報