風土(読み)ふうど(英語表記)climate

翻訳|climate

精選版 日本国語大辞典 「風土」の意味・読み・例文・類語

ふう‐ど【風土】

[1] その土地の気候・地味・地勢など。その土地のありさま
※万葉(8C後)一七・三九八四・左注「霍公鳥者立夏之日来鳴必定、又越中風土希橙橘也」
※花柳春話(1878‐79)〈織田純一郎訳〉二〇「人民其風土に染み」 〔後漢書‐衛颯伝〕
[2] 文化論の哲学書。一巻。和辻哲郎著。昭和一〇年(一九三五)刊。世界各地の風土をモンスーン・砂漠・牧場の三類型に分け、風土の型によってその風土の上に成立する人間の思想や文化の型が規定されると主張する独自な文化史論を展開した。

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デジタル大辞泉 「風土」の意味・読み・例文・類語

ふう‐ど【風土】

その土地の気候・地味・地勢などのありさま。
人間の文化の形成などに影響を及ぼす精神的な環境。「政治的風土」「宗教的風土
[補説]書名別項。→風土
[類語]気候気象季候時候陽気寒暖寒暑天候天気日和空模様空合い風雲

ふうど【風土】[書名]

福永武彦長編小説。著者が大学を卒業した昭和16年(1941)に執筆を開始、約10年の執筆期間を経て昭和26年(1951)に完成。第2部をのぞいた省略版が昭和27年(1952)に刊行。その後、増補版が昭和32年(1957)と昭和43年(1968)にそれぞれ刊行された。フランスの伝統的心理小説スタイルに則った作風で注目を集める。

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改訂新版 世界大百科事典 「風土」の意味・わかりやすい解説

風土 (ふうど)
climate

風土は中国起源の語で,元来,季節の循環に対応する土地の生命力を意味した。土地は,天地の交合によって天から与えられた光や熱,雨水などに恵まれているが,生命を培うこれらの力が地上を吹く風に宿ると考えられたのであろう。許慎(後漢)の《説文解字(せつもんかいじ)》に〈風動いて蟲生ず〉とあるように風という字の中の虫は,一年中で最も早く生じる生物であった。人間本来の性は同じでも,土地の生命力ごとにその涵養のされ方には違いができることから,風土の語は,《後漢書》では場所ごとに異なる地方差を意味するに至った。2世紀末には《冀州(きしゆう)風土記》をはじめとして,《風土記》を称する地誌が所見される。古代日本でも8世紀以来地誌編纂が行われたが,《風土記》の名称が正式にみえるのは,925年(延長3)の太政官符である。しかし《万葉集》の大伴家持の歌の注に〈越中風土。梅花柳絮,三月初咲耳〉などとあり,すでに平城の人々にとって,全体としての土地柄を示す風土の語は親しみやすい独自の響きをもっていたのであろう。

 ヨーロッパでは,風土に対応する語に〈クリマKlima〉がある。古代ギリシアで傾きや傾斜を意味したこの語が,太陽光線と水平面とのなす角度が場所ごとに変わることから,気候や気候帯を意味することになった。また気候の変化に応じて土地柄も変わることから,各場所ごとの大局的な傾向を表すものとして,クリマすなわち風土という概念が再生産された。しかし,古代のヘロドトスストラボンから近世のボダンモンテスキューに至るまで,土地柄を規定する主因として素朴に気候が取り上げられ,現代でも風土すなわち気候とみなされやすい。われわれを包みこむ全環境としての風土を包括的に体系化したのは,ヘルダーJ.G.Herderであった。彼は《歴史哲学の理念》(1784-91)の中で,各場所の森羅万象が風土に即していることを強調し,〈土地の高低,その性質,その産物,飲食物,生活様式,労働,衣服,娯楽,技芸などのすべてが,風土の描きだしたもの〉とみ,〈人間にも,動物にも,植物にも,固有の風土があり,いずれもその風土の外的作用を特有の仕方で受けとめ,組織し,編みなおすものである〉と論じて,人間史の基礎に主体的な風土を位置づけた。

 日本では和辻哲郎が《風土》(1935)を著しユニークな風土論を展開した。西欧哲学の関心は,風土よりも時間や歴史に傾いていたが,和辻は,存在と時間の関係を論じたM.ハイデッガーの歴史への視点を場所へと移したのである。彼は家,村,町,国,会社など地上の客観的な形成物が,それぞれ人間存在の特殊な仕方を表現するものであるとし,〈世間〉の空間的な間柄を探る必要を説く。こうした空間的な間柄を映しだすものが風土であり,風土ごとに間柄の表現と了解には異なる仕方があると論じた。そして,具体的に〈牧場的風土〉のヨーロッパや〈砂漠的風土〉のオリエント,〈開拓者的風土〉のアメリカと比較して,〈モンスーン的風土〉の日本における特徴を探っている。彼は,牧草に恵まれ,意のままに生活の営まれやすいヨーロッパの自然克服の文化と対比して,モンスーン(季節風)に規定されがちな日本では,自然順応の生活様式や考え方が目だつという。思想史的にみて,従来の考え方に欠けていた人間存在の風土的側面に注目し,地表上に展開する風土を具象的に解明しようとする点で,和辻の《風土》は評価される。

 一方,ドイツではフッサールが,発生母胎としての日常の〈生活世界〉をみのがすところに近代諸科学の危機があると論じ,つづいてフランスのメルロー・ポンティが,〈生活世界〉の概念を〈身体の延長としての生きられる空間〉へと深化させ,知覚世界の現象学を提示した。これは,風土の概念を哲学的に深めるうえで示唆的であるといえよう。

 しかし風土を論じるにあたっては,地理学的研究の成果を無視できない。ヘルダーの思想的影響のもとに,〈局地〉〈地方〉〈大陸〉などの分節構造をもつ地表の部分について,各レベルの分肢に宿る〈類型〉を明らかにしようとしたK.リッターの地理学や,その考え方を発展させたF.ラッツェルの位置や運動,領域論は,人間を大地の内的存在とみる。また各地の個性を解明しようとする地誌学研究が実証する自然-人間の生態系,行動に枠組み(地と図)を提供する多彩な文化景観,地域区分の流動性などにも,全体としての風土の把握にとって有効な視点が少なくない。思弁的傾向の強い上述の思想家たちが,近代地理学の動向に無関心であったことは,風土論の理論構築にとっても不幸なことであった。和辻は《風土》執筆後にビダル・ド・ラ・ブラーシュの《人文地理学原理》(1922)に接して,もしあらかじめビダル・ド・ラ・ブラーシュを知っていたならば,その論述も違っていただろうと付記している。

 以上の諸説とは学史的背景を異にするが,シュペングラーの《西欧の没落》やトインビー《歴史の研究》,クローバーA.L.Kroeberやベネディクトの文化類型論には,旧来の地理学的研究の多くに不足しがちな文明や文化,人間についての比較考察が豊かにみられる。文化や社会の伝統的な一元論的発展説を批判して,諸文化の多系論を展開したこれらの諸説も,風土論とかかわるところが大きい。またウィットフォーゲルは,F.vonリヒトホーフェンの中国地理研究の成果を批判的に再構成して,中国をはじめとする灌漑社会の構造を論じた。現代の比較文化論のなかには,これらの諸説につながるものが少なくないが,しかし関心の所在は各社会や文化の部分にとどまり,それらを包み,育てる風土の全面に身を挺することに乏しい。風土への関心は,いまやエコロジー主義や地域主義(リージョナリズム)の流れとも密接に結ばれている。各地方のかけがえのなさの発見や多彩な価値体系の創造への期待とも関連するところの大きい風土論の発展のためには,各地域の比較研究にふさわしい学際的な共同体制が必要である。
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普及版 字通 「風土」の読み・字形・画数・意味

【風土】ふうど

地味。風俗。〔国語、周語上〕ぶ。~是の日や、瞽師官、以て風土を省(み)る。

字通「風」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「風土」の意味・わかりやすい解説

風土
ふうど

地域によって異なる特色をもった環境としての自然。単に気候のみでなく,地形,水,土壌,植生などやさらに歴史的建造物など多くの要素を含む。和辻哲郎は『風土-人間学的考察』のなかで,人間の自己了解の仕方と考えを風土的規定をかりて類型化した。

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栄養・生化学辞典 「風土」の解説

風土

 その土地の気候・地味・地勢など,その土地のあり様をいい,人間の思想や文化は風土に規定されるといわれている.

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