改訂新版 世界大百科事典 「小人の贈物」の意味・わかりやすい解説
小人の贈物 (こびとのおくりもの)
《グリム童話》182番の題名であるが,同じタイプの昔話はアイルランドに多く,その他ヨーロッパ全域,トルコ,イラン,インドにも分布している。仕立屋と金細工師が旅をしていると,月夜に丘の上で小人たちが歌いつつ踊っている。真ん中にいる大きな爺(じじい)の合図で2人もいっしょに踊る。すると爺に髪とひげを剃り落とされる。それから石炭をもらって帰ると,翌朝には純金になっている。金細工師は欲ばって再び試みるが,翌朝見ると,前日の純金まで石炭になっている。そのうえ,頭もあごもはげあがり,背なかと同じこぶが胸にもできていて,以後は仕立屋の世話になって生涯を送る。この小人とその中心にいる爺は,ヨーロッパの先住民ケルト人の信仰にもとづく妖精の一種である。歌と踊りを好み,集団を形成しているのがその特徴である。日本の〈こぶとりじじい〉の鬼もこれと同じ性質をもっており,〈こぶとりじじい〉の話はその世界的分布の一端と考えられる。
執筆者:小澤 俊夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報