日本大百科全書(ニッポニカ) 「年輪気候学」の意味・わかりやすい解説
年輪気候学
ねんりんきこうがく
dendroclimatology
過去の気候環境などを樹木の年輪の成長幅から推定する気候学。イタリアのレオナルド・ダ・ビンチも樹木の年輪を調査したといわれるように、ヨーロッパでは19世紀にすでに大学の講義に取り入れられていたとされるが、学問的には年輪年代学とともに、20世紀に入ってアメリカの天文学者ダグラスAndrew Ellicott Douglass(1867―1962)によって始められた。1年分の年輪幅は春材(早材)と夏材・秋材(晩材)の合計で読み取る。春材は、春暖かい気候のもとで形成層の働きが盛んで、薄膜で大形のセルロースcellulose(繊維素)からなる柔らかく密度の粗い部分で、夏材・秋材は、夏から秋にかけて形成層の働きが鈍り、厚膜で小形のセルロースからなる固く緻密(ちみつ)な部分をいう。この年輪の読み取りは、ルーペや顕微鏡、X線密度計などで行われる。採集は、切り株を利用するほか、生きた樹木から年輪のコア(核)を取り出す方法もある。これまでの調査研究では、年輪幅を決定する気候要素として、高緯度地方における気温と低緯度地方における降水量が考えられている。都市域では大気や水質・土壌などの環境汚染も年輪成長に現れていることが20世紀後半の研究で明らかにされ、環境科学へも応用されている。
[福岡義隆]