光学系によって物体の拡大像の観察を可能にする装置。
焦点距離が短い対物レンズと、焦点距離が数センチメートルの接眼レンズからなる。対物レンズは、焦点よりすこし外側にある物体の倒立実像を接眼レンズの前側焦点近くに生ずる。接眼レンズは、虫めがねのように、対物レンズによって生じた像を拡大して観察させる。対物レンズ、接眼レンズの焦点距離をそれぞれfo、feとし、顕微鏡の光学的筒長といわれる量をΔ、肉眼の明視の距離を250ミリメートルとする。対物レンズの倍率はΔ/foで、接眼レンズの倍率は250/feで与えられる。したがって顕微鏡の総合倍率は250Δ/fofeで与えられる。Δは機械的筒長といわれるものに近い。対物レンズは顕微鏡の性能を左右する重要な働きをする。顕微鏡の性能は倍率のほかに開口数とよばれる量によって支配される。開口数が大きいほど、対物レンズが微小部分を分解する能力(分解能)が大きくなる。またこの分解能を発揮するためには、収差をよく補正することが必要である。中心部の像をよくするには、球面収差、コマ収差とよばれる収差を補正する必要があり、そのためには正弦条件とよばれる条件が満たされる必要がある。また色収差という収差を補正しなければならない。色収差を補正した対物レンズはアポクロマートとよばれる。高倍率の対物レンズではもっとよく色収差を補正することが必要で、そのような対物レンズはアポクロマートとよばれる。
また高倍率の対物レンズでは、収差補正および分解能をあげる目的から、観察試料と対物レンズの前面の間の空間を適当な液体で満たす。これを液浸法といい、このようにしてつくられた対物レンズを液浸対物レンズという。試料に適当な光を送り込むために照明装置を必要とする。このため、低倍率の顕微鏡では、試料ステージの下に平面鏡か凹面鏡の反射鏡を置き、天空や窓などの一様な明るさのものを試料面に結像する。高倍率の顕微鏡では、コンデンサーとよばれる光学系をステージの下に備えており、試料面を対物レンズの開口数に見合う広がりの光線束で照らすようになっている。
[三宅和夫]
顕微鏡は、その用途、使用される光の波長、利用される原理などにより分類される。
もっとも普通の顕微鏡は、生物などの透明試料を観察するための生物顕微鏡である。光をステージの下から透過させ、試料各部の吸収の差により像に明暗のコントラストを生ずる。金属のように不透明な試料は、反射光によって観察する必要があり、そのため顕微鏡の側から照明光を送り込む垂直落射照明装置を備えた金属顕微鏡が用いられる。吸収や反射率の差による明暗のコントラストを生じない試料は、前述の顕微鏡では観察できない。このような試料の場合には、屈折率の差や表面の凹凸によって生じた位相差を明暗のコントラストに転じる位相差法を用いることにより、観察が可能となる。この顕微鏡を位相差顕微鏡という。試料を染色する必要がなく、生物を生きたまま観察できる利点がある。照明光を側方から当て、直進する光は対物レンズに入らないようにし、試料により散乱された光だけで観察を行うのを暗視野顕微鏡という。また分解能の限界よりも小さい粒子を、暗視野照明による散乱光によってその存在のみを検知する限外顕微鏡がある。
使用する波長による分類としては紫外線顕微鏡があり、紫外線を使用することにより分解能を高め、また可視光線では存在しない吸収によりコントラストを生ずることができる。ほかに赤外線分光器の試料に赤外線を送り込むための赤外線顕微鏡がある。光でなく電子線を使用する電子顕微鏡が近年発達した。レンズで光を屈折させるのに対応し、電界・磁界の作用により電子の進路を曲げて像を結ばせる。電子線の波長が光に比べてはるかに短いので、高倍率、高分解能を得ることができる。しかし電子線は空気を透過しないので、試料を真空槽中に保持しなくてはならない。光学顕微鏡とは使用目的が異なり、互いに相補うものである。観察に便利なため、観察部で光線をプリズムによって二つに分け、両眼で観察するようにしたものがあり、双眼顕微鏡という。
[三宅和夫]
1590年ごろ、オランダの眼鏡職人ハンスとザカリアス・ヤンセン父子によって発明されたといわれる顕微鏡は、そのしばらくのちに発明され天文学を飛躍的に発達させた望遠鏡と深く関連して進歩し、生物学を画期的に発展させた。オランダの博物学者レーウェンフックの顕微鏡は、ガラス玉を磨いてつくった虫めがね以上ではない簡単なものであったが、彼はこれを用いて赤血球、精子、ヒドラ、ワムシなどを記載し、組織学の創始者となった。組合せレンズの複式顕微鏡を用いて1665年に細胞の発見者となったのは、イギリスの物理学・天文学者のR・フックであるが、彼の顕微鏡は収差がひどく、レーウェンフックの顕微鏡に性能が及ばなかった。光学顕微鏡はその後改良され解像力を増していった。しかし、ドイツのツァイス社の物理学・天文学者であるE・アッベの研究によって、解像力には限界のあることが1887年に明らかにされた。彼の理論によれば、
解像力=波長÷開口数
で表され、
開口数=入射側媒質屈折率×sin(最大入射角)
は、油浸でも、1.52×sin90゜が理論上の最大値であるから、波長530ミリミクロンの緑色光を光源としたときの解像力は約350ミリミクロンが限界となる。
生物材料を観察するための一般的方法は、対象とする組織を(1)固定液で固定し、(2)パラフィンやセロイジンなどの包埋剤を用いて一様に硬化させ、(3)ミクロトームで薄切りして切片をつくり、スライドガラスに張り付け、(4)目的にあった色素で染色する。こうしてできあがったものがプレパラート(顕微鏡標本)で、これを顕微鏡で観察する。通常の染色では、酸性色素と塩基性色素を適当に組み合わせて直接に組織を染めるが、組織や細胞内にある特定の物質や酵素の分布を調べるには、化学反応の産物を着色させる方法による。これを組織化学または細胞化学という。通常染色も組織化学も死んだ組織につけた色を見るものであるが、組織や細胞を生(なま)の状態で着色せずに観察するには、位相差顕微鏡、またはその欠点をほとんど補った微分干渉顕微鏡を用いる。これは透明な組織でも屈折率が部分によりわずかに異なるのを明暗の差に変える機構をもった顕微鏡で、位相差顕微鏡はオランダの物理学者ゼルニケがツァイス社の協力により1935年に完成した。
電子顕微鏡は光線のかわりに電子線を用いる。電子線は波長が約0.05オングストロームと短いので、光学顕微鏡の解像力の限界を容易に超すことができる。電子顕微鏡の原理は、光学顕微鏡の原理とよく似ている。熱したフィラメントに加速電圧をかけると熱電子が陽極に向かって飛び出す。この電子線が陽極中央の穴を進み、電磁石でできている集光レンズを通り試料に当たる。試料を通過したのち、対物レンズと投射レンズにより屈折し、蛍光板上に拡大して像を結ぶ。試料内に密度の高い部分があると、電子線は散乱するので暗い像をつくる。暗く見える部分は、電子密度が高いという。厚い試料やバクテリアをまるごと観察するには、加速電圧の大きな超高圧電子顕微鏡が用いられる。これらの電子顕微鏡は透過型電子顕微鏡という。これに対して、細胞や物体の表面の立体構造を見るために開発されたのが走査型電子顕微鏡である。これは試料を電子線で走査したときに、試料から出る二次電子を検出し、ブラウン管上に走査し、明暗像をつくる。
[川島誠一郎]
生物顕微鏡は可視光線550ミリミクロンの波長で使用する光学顕微鏡で、対物レンズ(対物鏡)と接眼レンズ(接眼鏡)が鏡筒の上下についている。さらに標本を保持するステージ(載物台)と、標本を照明する照明系の集光器、絞り、反射鏡、光源(組み込まれた機種の場合)、焦点調整機構、鏡脚(ベース)、鏡柱(アーム)などからなる。生物顕微鏡は、大別すれば鏡筒上下動式とステージ上下動式の二つの型がある。どちらの型でも、もっとも重要な対物レンズは、4倍、10倍、20倍、40倍、60倍(以上乾燥系)、100倍(油浸系)が一般に用いられる。一方、対物レンズの像を拡大する接眼レンズには、5倍、10倍、15倍、20倍のものがある。
顕微鏡観察は、清潔で乾燥した、ほこりの少ない場所を選び、自然光を光源とする場合は北側の窓の太陽光線を用いるとよい。人工光源には蛍光灯などが適するが、付属の専用照明器具があればより効果的である。光源内蔵型はヨウ素光源が使用され、輝度も高く、優れている。
顕微鏡操作は次のような順序で行う。
(1)倍率を決める。初め低倍率のレンズで焦点をあわせ、必要によって高倍率に変える。鏡筒を高くあげて接眼レンズ、次に対物レンズを取り付ける。
(2)鏡筒を標準筒長に調整する(固定鏡筒はそのまま)。
(3)接眼レンズをのぞいて反射鏡を動かし、視野がもっとも明るく、明るさが一様になるようにする。
(4)ステージに標本をのせ、ステージの穴の中央にくるように固定する。
(5)焦点をあわせるときは、対物レンズと標本の距離を横から眺めながら対物レンズを近づけ、次に接眼レンズをのぞきながら粗動ハンドル、微動ハンドルを使って、正確に焦準をあわせる。
[林 武彦]
顕微鏡写真は、微細な構造の研究、検査、判別などで記録が必要な科学的、技術的分野で重要な役割を担っている。光学顕微鏡を用いた光学顕微鏡写真と電子顕微鏡を用いた電子顕微鏡写真があり、それぞれ、顕微鏡の種類、標本の種類、照明法などの違いで、生物顕微鏡写真、金属顕微鏡写真、走査顕微鏡写真などがある。
一般には一眼レフレックスカメラに専用のアダプターを用いて、比較的簡単に顕微鏡写真を撮ることができる。カメラはTTL式内蔵露出計の組み込まれているものが適している。さらに正確には、フィルム面測光TTLAE(ダイレクト測光)を利用すればよい。光源はスライド映写機か、付属の専用光源を利用する。いずれの場合も照明むらのないように顕微鏡との光軸合わせに注意が必要である。モノクロ(黒白)撮影は粒状性の細かいフィルムを使う。光源に緑色フィルターを利用すると好結果が得られる。カラー撮影は、リバーサルタイプ(スライド用)のフィルムを用いる場合、デイライト(昼光)用ではあらかじめ光源の明るさを決め、シャッター速度を変えて、色温度転換フィルター(ライトバランシングフィルター)のテストを行い、目的にあったものを選ぶ。タングステン光用は、双眼実体顕微鏡に落射斜照明法の光源でよく利用される。この場合も、光源の明るさを決めて、あらかじめシャッターテストを行い、適切なフィルターを選ぶようにする。標本は明暗のはっきりしたもの、平面性があること、カラーの場合は染色濃度のあるものが望ましい。顕微鏡写真はコントラストが少ないことをつねに念頭に置く必要がある。染色せずに撮影する生体標本(微生物など)は、動きを止めるくふうと顕微鏡の絞り方のくふうがたいせつである。カメラにモータードライブを装着するのも効果的である。
[林 武彦]
『坪井誠太郎著『偏光顕微鏡』(1959・岩波書店)』▽『田中克己著『顕微鏡の使い方』(1968・裳華房)』▽『八鹿寛二著『生物顕微鏡の基礎』(1973・培風館)』▽『井上勤監修・林武彦著『顕微鏡観察の基本〈顕微鏡観察シリーズ1〉』(1980・地人書館)』
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…物体を拡大して観測に用いる顕微鏡において,対物レンズによる物体の拡大実像が結ばれる焦点面上に目盛を刻んだガラス平板を置き,目標とする像に合わせて移動させ,その移動量を読み取ることができるものを測微顕微鏡という。主として標準尺の目盛線の読取りに用い,標準尺と組み合わせて測長器として用いることが多い。対物レンズで拡大された像の大きさを読み取る方法に標線移動式,像移動式および直読式がある。標線移動式は焦点面に可動の二重線または十字線の標線が入っており,その標線をマイクロメーターによって移動させ,標準尺の目盛線の位置を読み取るもので,目量1μmの測微目盛ドラムの1回転に対して移動標線が補助目盛の一目盛分,すなわち0.1mmを移動する(図1)。…
…またさらに進歩し,この断層像を細かいスライス間隔で複数枚収集し,3次元のボクセルデータとし,3次元再構成像を得る3次元CTも開発されている。
[医用画像処理される医用画像の種類]
医用画像処理されるデータは,CT装置による画像のほか,核磁気共鳴装置(MRI),超音波診断装置,核医学診断装置,ディジタルラジオグラフィー,ディジタルサブストラクションアンギオグラフィー(DSA),ディジタル内視鏡装置,顕微鏡による画像など数多くの種類が存在する。医用画像情報のほとんどのものは,ピクセルデータもしくはボクセルデータである。…
…ただし,ここでfとf′はそれぞれ物体側焦点距離と像側焦点距離,zとz′は物点と像点をそれぞれ物体側焦点と像側焦点から測った距離である。 虫眼鏡と顕微鏡では,像を明視の距離D(25cm)につくったときの横倍率で倍率を表し,虫眼鏡の焦点距離をf,顕微鏡の対物レンズと接眼レンズの焦点距離をそれぞれf1とf2とすれば,虫眼鏡の倍率はD/f,顕微鏡の倍率は⊿×D/(f1・f2)で与えられる(⊿は顕微鏡の光学的鏡筒長で,通常18cmである)。望遠鏡では,像の視角と肉眼で見た物体の視角の比を倍率といい,対物レンズおよび接眼レンズの焦点距離をそれぞれf1,f2としてf1/f2で与えられる。…
…これは分散系の性能とレンズの結像性能で決まるが,レンズを無収差としたとき,回折格子分光器では回折次数をm,開口に含まれる格子線の数をNとしてmNで,またファブリ=ペロー干渉分光器では干渉次数をk,フィネスをRとしてkRで,プリズム分光器ではプリズムの底辺の長さをt,プリズム材料の分散をδn/δλ(nはプリズムの屈折率)として,t・(δn/δλ)で与えられる。
[望遠鏡や目]
望遠鏡,顕微鏡などの光学器械や目(これも一種の光学器械とみなせる)などでは,2点または2線を分離して見分ける能力をいう。これらの光学器械では,二つの近接する,等しい光度の点や線の像は,その間隔をせばめていくとついには分離したものとしては見えなくなる。…
※「顕微鏡」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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少子化とは、出生率の低下に伴って、将来の人口が長期的に減少する現象をさす。日本の出生率は、第二次世界大戦後、継続的に低下し、すでに先進国のうちでも低い水準となっている。出生率の低下は、直接には人々の意...
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