日本大百科全書(ニッポニカ) 「役土人」の意味・わかりやすい解説
役土人
やくどじん
近世の北海道におけるアイヌの役人。アイヌ支配のため家柄などにより村役人に擬して乙名(おとな)、小使(こづかい)などの名称の役職に任じられた。オムシャ(久しぶりに面会した人の間での礼式。しだいに日本人がアイヌに贈り物を贈る、アイヌ統治上の意味をもつ行事となった)の儀式における贈り物などがやや厚く行われ、松前(まつまえ)城下へ赴き藩主に謁する地位でもあった。触書(ふれがき)の伝達など日本人のアイヌ支配の末端を担う立場に置かれたが、同時にアイヌ側からの要求や抵抗の代表者ともなった。場所請負制のもとで日本人の支配力が強まるにつれて整備されたようで、19世紀初めごろには、各集落ごとに乙名、脇(わき)乙名、小使、土産取(みやげとり)などのアイヌ人名をあげている史料もみられる。幕末の幕領期には庄屋(しょうや)、名主(なぬし)などの名称も使われるようになった。
[田端 宏]
『高倉新一郎著『新版 アイヌ政策史』(1972・三一書房)』