改訂新版 世界大百科事典 「役者口三味線」の意味・わかりやすい解説
役者口三味線 (やくしゃくちさみせん)
役者評判記。江島其磧(きせき)著。1699年(元禄12)3月,八文字屋八左衛門刊。黒表紙の横本で,3巻(京,大坂,江戸)3冊からなる。浄瑠璃の正本や狂言本など演劇書の出版で知られる八文字屋の最初の役者評判記で,内容は,各巻が小書(目録),役者目録,開口,役者評の順に記されている。ほかに数ページの挿絵がある。これまでの野郎(やろう)評判記が多く半紙本で,若女方や若衆方の容姿を挿絵や評判で楽しむといったブロマイド的性格だったのが,本書は小型横本で,立役や敵役などすべての役者を網羅した演技評中心の読み物として実用的な歌舞伎案内書となっている。以後,役者評判記はこの体裁・形式を踏襲することとなる。その意味で画期的な書である。なお,こうした形式は,《野良立役舞台大鏡》(1687)など〈鑑(かがみ)もの〉と呼ばれる初期の役者評判記にもすでに試みられているが,本書によって定型化された意義は大きい。また,本書に対する反駁の書に《口三味線返答役者舌鞁》(1699)がある。《歌舞伎評判記集成》第2巻に収録されている。
→役者評判記
執筆者:宮本 瑞夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報