改訂新版 世界大百科事典 「微分可能多様体」の意味・わかりやすい解説
微分可能多様体 (びぶんかのうたようたい)
differentiable manifold
可微分多様体ともいう。多様体のもっとも手近な例は地球のような球体の表面である。すなわち,地球は平面地図によって表されるとおり,それを局所的にみるときは,東西南北ないし右左上下一意に定まった座標を導入することが可能であるが,この座標を全体に過不足なく拡張することはできない。そこで,全体をおおうような数枚の地図を用意し,地図帳を作ることによって全体像を得ることが行われるわけであるが,一般の多様体も,ほぼこれと同じ考えの下に導入,定義される。
したがって,多様体は,まずは局所的に座標を導入できるような空間ということができる。言い換えれば,いくつかのn次元ユークリッド空間と同相な開集合でおおわれる空間がもっとも基本的なものである。この開集合の中には,ユークリッド空間のそれを用いて座標が導入されるのでそれらを座標近傍と呼ぶ。地図帳の場合でもそうであるが,空間の1点が,複数個の地図,あるいは座標近傍に含まれることが起こり,その場合には,複数の座標がその点のまわりに導入されることになる。そして,その間の変換が一つのユークリッド空間から他のそれへの関数として与えられるわけであるが,この関数がとくに,すべて微分可能である場合にその多様体は(座標近傍のとり方をも含めて)微分可能多様体を定めるという。地図帳の場合,この関数は地図の重なりぐあいを与えるものであって,その微分可能性は,したがって重なり方,ないし,はり合せの滑らかさを与えるものである。
執筆者:四方 義啓
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報