改訂新版 世界大百科事典 「快楽殺人」の意味・わかりやすい解説
快楽殺人 (かいらくさつじん)
pleasure (lust)-murder
クラフト・エービングによると,殺人そのものが強い性的興奮・満足を与えることがあり,それを目的として行われる殺人を快楽殺人という。サディズムの一類型とも見られる。ただし,強姦,強制猥褻(わいせつ)の犯行後に犯罪の発覚,逮捕を免れる目的で被害者を殺害する場合の多くは,快楽殺人とはいえない。犯罪学者ゼンフR.Senfによると,快楽殺人には次の3型がある。(1)典型例。被害者を性的に破壊することによって性欲の満足を得る場合で,性交は行われず,殺人,死体損壊が性交の等価物となっている。このタイプの快楽殺人者には性機能不全者が多い。(2)性欲の強い犯人によって行われるもの。性交中の殺人や死体損壊が性的興奮を著しく亢進させるために行われる。内村祐之によって報告された大量女性殺人犯小平義雄は,被害者の首を絞め仮死状態においての性交を好んだ。クラフト・エービングの報告する例では,乳房の切断,性器の剔出(てきしゆつ),内臓の引出し,四肢解体など酸鼻な行為が多い。イギリスの〈切裂きジャック〉などもこの類型に属する。(3)サディズム的快楽殺人。被害者の苦悶を見ることが性的満足・興奮に結びつくもので,ドイツのベルクK.Bergの報告したキュルテンP.Kürtenなどは,絞頸,性交と殺害が結びついている。快楽殺人の被害者の中にはしばしば売春婦が大きな割合を占めている。快楽殺人者の性格は,反社会性パーソナリティ障害者がほとんどであり,多くは殺人累犯者,大量殺人者である。快楽殺人は,精神分析学的にいえば,人間の二大基本本能たる死の本能(タナトス)と生の本能(エロス)とが通底した性倒錯とみなしうる。衝動論からみれば,性衝動と攻撃衝動,破壊衝動とが相互に融合した欲動放散の極端なケースとも考えられる。近縁の行為形態としては,サディズム,死体姦(ネクロフィリア),動物虐待,カニバリズムがあり,しばしば快楽殺人と並行して行われる。
執筆者:福島 章
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報