性器はヒトおよび生物において子孫の増殖をつかさどる器官で、生殖器、生殖器官ともいう。この性器の項目では、ヒトの形態的、機能的な説明を中心とし、動植物、およびホルモンの関与については「生殖器官」の項目に譲ることとする。
性器は男女によりその構造が著しく異なっている。基本的には、生殖要素となる精子・卵子(配偶子)を生産する生殖腺(せん)、配偶子を輸送する生殖管、輸送を円滑にする付属生殖腺および交接器からなる。ヒトの性器は、発生学的に外性器(外生殖器)と内性器(内生殖器)に区別される。外性器は外部に現れている性器(いわゆる外陰部)で、おもに交接器となる。内性器は生殖機能をつかさどる器官である。
[嶋井和世]
男性性器のうち、内性器は精巣(睾丸(こうがん))、精巣上体(副睾丸)、精管、精嚢(せいのう)および前立腺などであり、外性器は陰茎および陰嚢である。生殖要素となる精子の生産は精巣で行われる。
[嶋井和世]
精巣は陰嚢内部に収まる左右1対の器官である。形はやや圧平された楕円体(だえんたい)状で、大きさは長軸約5センチメートル、横幅約3センチメートル、厚さ約2センチメートルで、重さは8~8.5グラムである。精巣の長軸方向は上前方から下後方に傾いている。また、一般に左精巣が右精巣よりもやや低位にある。
精巣は強靭(きょうじん)な線維性結合組織からなる白膜(はくまく)に包まれている。精巣の後縁部分の白膜は肥厚して精巣縦隔(睾丸縦隔)という塊を形成し、これから精巣内に向かって結合組織の薄板が侵入して、精巣内を200~300個の精巣小葉に区分けしている。各小葉内には、きわめて繊細な曲精細管(精細管)が充満している。この曲精細管は直径約0.15~0.25ミリメートル、長さ10~80センチメートルほどである。各小葉内では、1~4本の曲精細管が強い迂曲(うきょく)を示しながら走り、精巣縦隔に向かっている。各小葉内の曲精細管は、精巣縦隔に近づくと1本の直精細管となり、縦隔に入る。精巣縦隔内では、直精細管は互いに連絡して精巣網(睾丸網)を形成する。一側の精巣内には曲精細管が800本ほど含まれている。精子はこの曲精細管の中で生産される。精巣は、胎生期には後腹膜腔(くう)内に発生するが、出生までに腹腔内を下降し、陰嚢形成とともにこの中に入る。この下降が不完全で、途中で止まっている場合を停留睾丸とよび、性ホルモンの分泌はおこるが、精子形成が不能となる。精子形成には、体温よりも低い温度環境が必要なため、停留睾丸では精子形成ができないわけである。
精巣上体は、全体としてほぼ三角錐体(すいたい)状を呈しており、精巣の上端から後縁に沿って付着している。精巣上体の下部は精管につながる。また、精巣網からは、15~20本ほどの精巣輸出管が出て精巣上体の上部に入る。この精巣輸出管は下行しつつ合流して、1本の精巣上体管(睾丸体管)になり、精巣上体の下端から出て精管に移行する。精管は全長約40~50センチメートルで、精巣の後縁に沿って上行し、血管、神経とともに精索を形成しながら鼠径(そけい)管を通過して腹腔内に入る。さらに精管は小骨盤の側壁に沿って後下方に向かい、膀胱(ぼうこう)の外側を回って膀胱底の後面に達する。左右の精管は平行に並び、末端部は紡錘状に膨らんで精管膨大部を形成する。膨大部の末端はふたたび細くなり、前立腺内に侵入し、精嚢からの導管と合流して射精管となる。長さ1センチメートルほどで、1対の射精管は、尿道の始部(尿道前立腺部)の精丘の部に開口する。
[嶋井和世]
精嚢は、精管の下端の部分が外側に膨隆して、長さ3~5センチメートルの袋状になったもので、精管膨大部の外側にあり、精管膨大部とは細管で交通している。精嚢内部では、粘稠(ねんちゅう)で果糖に富むアルカリ性の分泌物が出されるが、これは精液と混じり合って精子の運動を活発にする働きをもっている。精嚢は、かつては精子の貯蔵所と考えられていたが、現在では、射精時の精子の大部分は精管内のものとされている。
前立腺は古くは摂護腺とよばれた。学術用語のProstataの語源はギリシア語で、「前に」の意のproと、「立つ」の意のstatesが合成されたものである。つまり、前立腺が膀胱の前に位置するという考えから使われたものである。形態的には、前立腺は膀胱底の下部に接して位置し、先端を前方に向けたクリの実状をしており、大きさもほぼクリの実大である。尿道は、この腺の中央よりやや前の部分を貫通している。前立腺の内部は分岐胞状管状腺組織で構成され、アルカリ性で乳白色の前立腺液を分泌する。この液は精子の運動を活発にする役割をもつほか、精液臭のもとともなっている。老人にみられる前立腺肥大は、尿道を圧迫するため、排尿困難を生じやすい。前立腺は、直腸から指を5センチメートルほど奥に入れると触れることができるため、前立腺の状態は指診で容易に診断することができる。前立腺内には両側に二十数本の導管があり、尿道に開口している。また、前立腺の下方には、骨盤底をつくる筋肉層があり、その内部には1対の尿道球腺(クーパー腺)がある。尿道球腺はエンドウ豆大で、アルカリ性、粘液性の分泌物を出し、尿道(海綿体部)に導出される。これらの腺は男性のみに存在する副生殖腺である。
[嶋井和世]
外性器の陰茎は交接器であるとともに、泌尿器の一部となっている。ラテン語の学名Penisは動物の「尾(ぶら下がっている)」の意味である。俗に男根ともいう。陰茎は恥骨部で体表から突出している。内部には尿道を鞘(しょう)状に囲む尿道海綿体組織があり、その背側方に1対の陰茎海綿体組織がある。これらの組織は皮膚によって包まれている。陰茎は、恥骨前面から出て、陰茎背部に付着している陰茎堤靭帯および陰茎ワナ靭帯によってつり下げられている。陰茎の先端は膨大となり、この部分を陰茎亀頭(きとう)とよぶ。陰茎亀頭の先端には尿道が開口している(外尿道口とよぶ)。陰茎亀頭では皮膚がひだ状となり、陰茎亀頭を覆っている。このひだを包皮とよぶ。包皮が亀頭を完全に覆っている状態を包茎といい、小児の場合では、この状態が普通である。亀頭には、とくに知覚神経終末が豊富に分布し、きわめて敏感な性感帯をなしている。亀頭の刺激は仙髄の勃起(ぼっき)中枢に伝えられ、その興奮は陰茎海綿体神経によりさらに陰茎海綿体に伝えられると、大量の血液が流入し、陰茎の充血・硬直がおこり、陰茎の勃起となる。陰茎の勃起は前立腺、精嚢、膀胱などからの刺激でもおこる。日本人(16~70歳)の陰茎の平均の長さは8.62センチメートル(田中友治(ともじ)による)という。
陰嚢は腹部から続く皮膚で、袋状を呈し、内部には精巣、精巣上体および精索の一部が入っている。陰嚢の皮下組織には陰茎と同様に脂肪組織がなく、肉様膜とよぶ薄い平滑筋層が発達していて皮膚と密着している。この筋層が収縮すると、陰嚢の表面には多数のしわができる。すなわち、肉様膜の伸縮によって陰嚢皮膚の伸縮が生じるわけであるが、これにより陰嚢内部の温度調節が行われるといわれる。なお、男子の鼠径ヘルニアの場合には、腸管が精索に沿って陰嚢内にまで下降することがある。
[嶋井和世]
精子が形成される曲精細管の管壁には、精子産生のもとになる特殊な精上皮が配列する。精上皮細胞には支持細胞(イタリアの組織学者セルトリE. Sertoliにちなみ、セルトリ細胞ともいう)と精子産生細胞の2種類が区別される。支持細胞は、精子産生細胞の間を埋めていて、精子産生細胞の支持と栄養に関与し、エストロゲンを分泌する。精子産生細胞は思春期の活動期になると、精祖細胞(精原細胞)、一次精母細胞、二次精母細胞(精娘(せいじょう)細胞)、精子細胞(精細胞)から精子へと形態変化をみせる。精母細胞は2回の成熟分裂により、染色体が半数になった精子細胞になる。
精祖細胞には、A型精祖細胞とB型精祖細胞とが区別されている。A型精祖細胞は、明調な細胞構造をもつ明調A型細胞と、暗調な細胞構造をもつ暗調A型細胞が存在する。A型精祖細胞は幹細胞として増殖分裂を続け、新しいA型細胞を生み出すが、精子形成のルートにのるのは明調A型細胞で、この細胞は5回ほどの有糸分裂をしてB型精祖細胞となる。B型精祖細胞は、1回の有糸分裂をして一次精母細胞を生じるが、この細胞は肥大成長して成熟分裂をおこし、二次精母細胞となる。ついで二次精母細胞は、2回目の成熟分裂により精子細胞となる。
精巣の曲精細管の周囲を埋めている間質組織の中には、細胞の一種である間質細胞(ドイツの解剖学者ライディッヒF. von Leydigにちなみ、リディッヒの細胞ともいう)があるが、これは男子の第二次性徴ホルモンであるテストステロンや他の2、3の男性ホルモンを分泌する。この細胞は下垂体前葉からの間質細胞刺激ホルモンの支配を受けている。
ヒトの精子は頭と尾からなり、尾は線毛の構造をなしている。精子の長さは50~60マイクロメートルほどである。頭は4~5マイクロメートルで、先端がとがった、やや扁平(へんぺい)な形をしている。頭はほとんどが細胞核で占められている。頭のすぐ後ろのくびれた部分を頸(けい)とよび、頭と尾の結合部になる。尾の長さは約55マイクロメートルで、前方から中間部、主部、終部に区分する。中間部には糸粒体(ミトコンドリア)が螺旋(らせん)状になって充満しているが、これは精子の運動のための原動力となる部分である。1回の射精で出される精液は、成人男子で1~6ccといわれ、1cc中に含まれる精子の数はおよそ6000万ほどである。
[嶋井和世]
女性性器のうち、内性器は卵巣、卵管、子宮および腟(ちつ)であり、外性器は陰裂を囲む大陰唇、小陰唇、陰核、腟前庭などである。卵巣は男子の精巣に相当し、西洋では「女性の睾丸(こうがん)」とよばれたこともある。卵巣は、卵子を生産し、排卵させるが、内分泌器としても働く。
[嶋井和世]
卵巣は1対の器官で、位置は骨盤の両側壁で、大骨盤と小骨盤の境よりやや下あたりとなる。扁平(へんぺい)な楕円体(だえんたい)状で、日本人では長さ2.5~3.5センチメートル、幅1.2~1.9センチメートル、厚さ0.6~1.1センチメートル(鈴木文太郎(ぶんたろう)による)で、一般には母指頭大とされる。卵巣の長軸方向はほぼ垂直である。卵巣は、骨盤内で卵巣提索と固有卵巣索とよぶ結合組織線維索で固定されている。卵巣提索は卵巣の上端と骨盤壁とをつなぎ、固有卵巣索は卵巣の下端と子宮底の外側角のところをつないでいる。卵巣提索内には、卵巣動脈、卵巣静脈、神経が含まれて走っている。これらの動・静脈が卵巣に出入りする部分を卵巣門とよぶ。卵巣の位置はしばしば移動する。
卵管は、卵巣から排出された卵子を、子宮に向かって輸送する左右1対の管である。卵管の外側端は卵巣に接して腹腔(ふくくう)に開く卵管腹腔口となり、内側端は子宮内腔に開口する卵管子宮口となる。日本人の卵管の長さは7~15センチメートルとされる。全長は、外側から卵管漏斗(ろうと)、卵管膨大部、卵管峡部および子宮部に4区分される。卵管漏斗は、卵管腹腔口が漏斗状になって腹腔に開いた部分である。その外側縁には房(ふさ)状の卵管采(さい)がついていて、卵子を卵管内に取り込むのに都合がよくなっている。卵子が卵巣から排出(排卵)されると、卵管采が卵巣表面に吸盤のように密着して、卵子を取り込むといわれる。卵管漏斗から卵管膨大部に移行し、ついで卵管峡部となり、子宮部になる。子宮部は子宮壁に埋没した部分である。卵子と精子の受精は、とくに卵管膨大部で行われるとされるが、受精卵がこの卵管膨大部で着床してしまうと、卵管妊娠となることがある。
卵管の内壁には、卵管ヒダとよぶひだが発達しており、その表面には線毛をもつ粘膜上皮細胞が配列している。この線毛運動は子宮方向に向かって行われる。また、卵管壁の外層には2層の平滑筋があり、粘膜上皮細胞の線毛運動と、この卵管平滑筋の運動とが卵子輸送の重要な因子となっている。これを支配している神経は自律神経である。
[嶋井和世]
子宮は受精卵を着床させ、出産まで胎児を熟成させる器官で、筋性中腔となっている。小骨盤の中央に位置し、子宮の後ろには直腸があり、子宮の前には膀胱(ぼうこう)が接している。非妊娠時の正常な子宮の形状は前後にやや扁平な西洋ナシ形、あるいはナス状を逆さにした形で、やや前方に傾いている。子宮下端は腟の上部によって包まれている。子宮は、妊娠時にはその大きさ、形態、構造が著しく変化するが、出産後はふたたび、ほとんどもとの状態に戻る。子宮の大きさは、長さ(上下)約7センチメートル、幅(左右)約4センチメートル、厚さ約2センチメートル、重量30~50グラムである。
子宮の構造は大別して、子宮体と子宮頸(けい)に分けられる。両者の間には軽度のくびれがあり、これを子宮峡とよぶ。子宮体には前面と後面とがあり、左右両側を子宮縁という。子宮体の丸みを帯びた部分を子宮底とよぶが、これは卵管が子宮へ開口する開口部よりも上部をいい、ここから子宮頸部に向かってしだいに細くなる。子宮後面と直腸の間には腹膜が深くくぼみをつくっている。これを直腸子宮窩(か)(スコットランドの解剖学者ダグラスJ. Douglasにちなみ、ダグラス窩ともよぶ)という。この部分は腹膜内の炎症や出血で、膿(のう)や血液の貯留所となり、診断上重要な部位となっている。
子宮体の外側縁の上端部には卵管が子宮と連結している。また、子宮の前面と後面を覆う腹膜は子宮体の左右外側縁で重なり合い、幅の広い子宮広間膜というひだをつくる。卵管は、このひだに包まれて上縁を横走している。卵管付着部のすぐ下の子宮外側縁からは、子宮広間膜に包まれて前外方に走る線維索があり、これを子宮円索とよぶ。これは骨盤側壁を走り、鼠径輪(そけいりん)から鼠径管を通過して大陰唇の皮下に放散している。子宮円索の中には多少の平滑筋が含まれている。子宮円索は、子宮体を前方に引いて、子宮を前傾位に保持するという保持靭帯(じんたい)の一種である。子宮頸部は子宮の下部3分の1にあたり、円筒状で、内腔は子宮頸管とよばれる。子宮頸管は、腟上部と腟部とに区分される。
腟の内腔には子宮の出口、すなわち子宮口(外子宮口)が突出している。子宮頸部の外側から伸びて骨盤外側壁に達する横走の靭帯を子宮頸横靭帯といい、子宮広間膜に包まれて、子宮の位置保持の役をしている。腟部の子宮口の外観は、前唇と後唇とからなる口唇状をしており、普通は閉じている。腟前壁と前唇との間を前腟円蓋(えんがい)、後唇と腟後壁との間を後腟円蓋という。子宮壁は内面が子宮内膜(子宮粘膜)で、その外側は子宮筋層となる。子宮筋層は3層の平滑筋からなり、子宮構造の主体を占める。妊娠時になると、筋層筋線維は分裂増殖し、また筋線維も太くなり、平常時の10倍くらいに大きくなる。子宮筋層の外層は子宮外膜で、腹膜の一部である。子宮体の内膜は、卵巣の内部変化に呼応して、思春期以降閉経期まで、性周期にしたがって著しい変化を示す。
子宮を骨盤壁に固定・支持している組織は、子宮円索、子宮頸横靭帯のほかに、肛門(こうもん)挙筋、恥骨頸靭帯(恥骨後面と子宮頸を結合する)、仙骨頸靭帯(仙骨下部と子宮頸部をつなぐ)などである。なお、腟は子宮の下部につながる部分で、約6~7センチメートルの管状構造である。腟下端を腟口とよび、左右の小陰唇に挟まれて腟前庭に開く。
[嶋井和世]
女性の外性器には、縦の裂溝状の陰裂を囲む左右の大陰唇、小陰唇、その他の陰核、腟および諸付属腺(せん)が含まれる。大陰唇は男性の陰嚢(いんのう)に相当する皮膚ひだであるが、陰裂によって左右に分かれており、豊富な皮下脂肪がある。両側大陰唇が前方で合する部分は皮膚が高まり、恥丘(ちきゅう)(陰阜(いんふ))とよばれる。両部位には、ともに汗腺、脂腺が存在し、思春期以後は陰毛が発生する。陰毛の発生状態は性差のほか、個人差、人種差がみられる。小陰唇は左右大陰唇の内側にみられる皮膚ひだで、腟前庭を囲んでいる。きわめて色素に富み、また血管に富んだ部位である。小陰唇の深部には、海綿状組織が勃起(ぼっき)組織として含まれている。小陰唇の形態は、年齢、性的成熟度、妊娠経験などで変化し、個人差もきわめて強い。小陰唇には、汗腺、脂腺はあるが、陰毛は発生しない。小陰唇が前方で合する部分には、アズキ大に突出した部位があるが、これを陰核亀頭(きとう)とよび、陰核の先端部となっている。陰核亀頭は、腟前庭の左右にある前庭球とよぶ海綿体組織(長さ約3センチメートル)が合したものである。陰核亀頭の上部が陰核体で、内部には陰核海綿体が含まれている。陰核海綿体は恥骨下枝に沿って左右に分かれ、陰核脚を形成している。陰核亀頭、陰核体、陰核脚の三者を総称して陰核とよぶ。陰核は男性の陰茎に相当し、海綿状組織であるため、性的興奮で充血し、勃起する。とくに陰核亀頭には知覚神経が密に分布するため、きわめて敏感な性感帯である。
腟前庭は左右の小陰唇に囲まれ、尿道、腟および大前庭腺の導管が開口する。尿道の開口部を外尿道口といい、陰核のすぐ後ろにある。それよりさらに1センチメートルほど後ろが腟口となる。腟口の左右両側の深部には、大前庭腺(デンマークの解剖学者バルトリンC. T. Bartholin Jr.にちなみ、バルトリン腺ともいう)がある。この腺は腟前庭を潤す無色の粘稠(ねんちゅう)な分泌物を出す。大前庭腺は、細菌感染により炎症(バルトリン腺炎)をおこしたり、導管の閉塞(へいそく)でバルトリン腺嚢腫(のうしゅ)をおこしたりする。なお、性交経験のない女性の腟口の後側縁には、薄い粘膜ひだが半月状にあり、これを処女膜とよぶ。
[嶋井和世]
卵子を生産する卵巣の構造をみると、表面に腹膜の続きである胚(はい)上皮が配列しており、その下には膠原(こうげん)線維を含む結合組織からなる白膜(はくまく)がある。卵巣が白くみえるのはこの白膜のためである。卵巣内部は緻密(ちみつ)な結合組織で、卵巣支質といい、外側の皮質と内部の髄質とに分けられる。両者の境は明瞭(めいりょう)ではないが、髄質中には多数の血管、リンパ管、神経線維が走っている。皮質にはさまざまな発育状態にある卵胞が存在する(幼若な卵胞は皮質表面に近くみられる)。卵胞は変化して卵祖細胞(卵原細胞)になるが、胎児期の卵巣の皮質には卵祖細胞がみられる。卵祖細胞は、出生直前まで分裂増殖を続けていくが、出生前に減数分裂前期の状態でとどまり、それ以後は、そのまま卵母細胞になる。新生児の卵巣内には、両方の卵巣をあわせて40万個もの卵胞がみられるが、これらの卵胞は、1個ずつ扁平な卵胞上皮細胞に周りを取り囲まれており、この状態の卵胞を一次卵胞とよぶ。一次卵胞はしだいに成熟するが、やがて分裂増殖で多層となった卵胞上皮細胞層に包まれて、二次卵胞となる。二次卵胞の卵胞上皮細胞はますます多層化するが、その後、この多層の卵胞上皮細胞間に大きな液腔ができて卵母細胞は一側に押しやられる。この状態の卵胞をグラーフ卵胞(オランダの解剖学者グラーフR. de Graafにちなむ)とよび、大きさは直径2センチメートルにも達する。これが排卵直前の卵胞である。発育過程にある卵胞は、比較的深層に存在するが、排卵直前の発達した卵胞になると、皮質に大きく広がり、卵巣表面に盛り上がってくる。また、排卵を終わったあとの卵巣は、黄体組織によって埋められ、黄体組織を構成する黄体細胞は、プロゲステロン(黄体ホルモン)を産生・分泌する。受精が行われた場合、黄体組織は妊娠黄体となり、受精が行われなかった場合は月経黄体となる。また、黄体組織は、妊娠が成立しないと結合組織性の白体組織になり、吸収されてしまう。このように、卵巣の組織構造は、出生時、小児期、性的成熟期、あるいは閉経期によって構造が異なるほか、性周期によっても変化する。
卵母細胞の染色体数は体細胞と同じである。思春期になって性成熟を迎えると、排卵現象の発現にあわせて一次卵母細胞は成熟する。排卵が始まるすこし前になると、一次卵母細胞は第1回の成熟分裂(減数分裂)を行い、二次卵母細胞(卵娘(らんじょう)細胞、卵子)となる。引き続き第2回の成熟分裂に入るが、この分裂は受精が行われると完了する。胎生期から存在する卵巣内の卵胞は、生後はしだいに減少し、閉経期にはほとんど消失してしまう。その間に、およそ28日に1個ずつの卵胞が完全に成熟して、卵胞が破れて卵子が排卵される。したがって、女性の生殖能力期間において排卵にまで達する卵胞は、約400個とされている。
卵巣の排卵現象の発現と同時に、子宮粘膜も周期的な変化を示す。すなわち、子宮内膜は約28日を1周期として変化を繰り返すこととなる。月経が終了すると、その直後から子宮内膜は増殖期に入り、しだいに肥厚して2~3ミリメートルの厚さとなる。分泌期(卵巣の黄体期に一致して、子宮粘膜の分泌活動が盛んになる時期)になると、子宮内膜はさらに厚くなり、5~7ミリメートルほどになる。この時期には子宮腺が発達し、粘液分泌も多くなる。また、螺旋(らせん)状のラセン動脈が発達してくる。しかし、受精がおこらなかった場合には、排卵後2週間ほどで、ラセン動脈の収縮と、酸素不足による内膜表層の組織破壊(壊死(えし))がおこる。そして血管の収縮がとれると、内膜表層の壊死組織の剥脱(はくだつ)とラセン血管からの鮮血の出血が生じ、月経となる。月経終了とともに内膜の表層部は修復され、ふたたび機能が回復される。月経によって剥離する内膜表層部を機能層とよび、月経で残る内膜の基底部を基底層とよぶ。これらの子宮内膜の変化は、卵巣ホルモンのエストロゲン、プロゲステロンの働きによって行われるものである。
[嶋井和世]
生殖器(生殖器官)reproductive organのことで,有性生殖を行うための器官であるが,ヒトでは性器という場合が多い。以下,ヒトの性器について述べる。
ヒトの性器は性腺(生殖腺)を中心に,これに付属ないし関連する諸器官からなる。すなわち男性では睾丸(精巣)で作られた精子が副睾丸(精巣上体)から精管を経て尿道に運ばれるが,付属腺として精囊や前立腺などがあり,交接器として陰茎がある。女性では卵巣とそこで作られた卵子を運ぶ卵管と,受精卵を育てる子宮,交接器としての腟などがおもな性器である。
このように,また,いうまでもなく,性器は男女で著しい性差を示すが,一般に性腺自身の特徴を一次性徴といい,それ以外の性別を示す特徴を二次性徴という。また,性器のうち外部から認められるものを外性器(外陰部),体内に保護されて外部から見えないものを内性器という。外性器には,男性では陰茎,陰囊があり,女性では大陰唇,小陰唇,陰核,腟前庭などが属し,主として性交に関与する。内性器には,男性では睾丸,副睾丸,精管,精囊,前立腺などが属し,女性では卵巣,卵管,子宮などが属し,配偶子(精子あるいは卵子)の生産と輸送,とくに女性では妊娠,出産に関与している。
性器は,発生学的に泌尿器と密接なつながりをもって生ずる。ヒト,一般的には羊膜類の泌尿器として一生働く腎臓は後腎であるが,その後腎の先行者である前腎,中腎の段階のものが性器用に一部転用されているのである。すなわち,胎生期の初期に前腎が体の左右に各1個でき,前腎からは,それぞれ1本の前腎輸管が出ている。やがて前腎が退化すると,その後方に中腎(原腎ともいう)ができ,前腎輸管はそのまま中腎輸管となるが,これをウォルフ管Wolffian ductという。そのころ,この管の外側を並行して走るミュラー管Müllerian ductが左右各1本できるが,これら二つの管はその後男女によって異なる運命をたどることになる。
すなわち,男児ではミュラー管は大部分が退化,消失してしまうが,ウォルフ管は発達して副睾丸,精管,精囊などを形成する。一方,女児ではウォルフ管は大部分が退化,消失するが,ミュラー管は中央部以下が1本の管に融合して子宮や腟となり,融合部より上方は対をなす卵管となる。なお中腎はやがて退化し,その後方に後腎が現れて,それがヒトの腎臓として機能するようになる(腎臓から膀胱に尿を運ぶ尿管は後腎輸管として中腎輸管とは別に形成される)。
また性腺(生殖腺)である睾丸または卵巣は中胚葉に由来し,中腎の隣に1対できるが,発育するにつれて腹腔内を下降する。女児では骨盤内で停止するが,男児ではさらに下降しつづけ,胎生期の終りには鼠径管(そけいかん)を通り抜けて陰囊内におさまる。まれに睾丸が陰囊内に入らないで,骨盤腔あるいは鼠径管などにとどまっていることがあるが,このような睾丸を潜伏睾丸(停留睾丸)といい,生殖力をもたない。なお睾丸下降は左側から始まり同時に停止するので,ふつう陰囊内では左が右より低位にある。
精子を作る器官が睾丸(精巣)である。ソラマメ大のやや平たい球形で,陰囊の中に1対あり,前述のように左のものが右のものよりやや低いことが多い。睾丸の中にはきわめて長い曲精細管が迂曲し,この中で精子が形成される。形成された精子は,直精細管を経て精巣網に運ばれる。そこから睾丸を出て副睾丸(精巣上体)に達し,ついで精管に入る。精管は鼠径管を通って骨盤内に入り,腹膜下の結合組織内を下って膀胱の後下方に達する。このあたりで精管は太くなって精管膨大部とよばれるが,ついで前立腺内に進入し,その中で細い射精管となって,前立腺を貫く尿道に左右別々に開く。また膀胱の後下面,前立腺のすぐ後上方には細長い紡錘形の精囊が1対あり,射精管に開口する。精囊は広い内腔とその周囲を埋める多数の憩室からなり,憩室の壁は単層ないし2列の立方ないし円柱上皮でおおわれる。タンパク質を多く含む黄色みをおびたゼラチン様の粘液を分泌し,射精時に射精管に送り出されるが,この分泌物はアルカリ性で精子の運動を盛んにする働きがある。
前立腺は膀胱の下にあり,尿道によって上下に貫通されるクリの実大の器官である。複合管状腺で,20~30本の導管が尿道に向かって出ている。腺の上皮細胞は単層ないし2列の円柱上皮で,タンパク質に富む乳白色で特有のにおいのある分泌物を多量に出す(精液の色やにおいは主として前立腺の分泌物による)。上皮の外側の結合組織内に大量の平滑筋を有するのが特色で,その収縮により前立腺の分泌物が尿道に放出されるだけでなく,この平滑筋の収縮によって射精管からの精液の放出や前立腺内の尿道からの精液の放出が行われる。なお前立腺の内腔には前立腺石とよばれる結晶物がよくみられる。結石の一種で,分泌物の成分が固まり石灰化の傾向を示すものである。
前立腺の下には尿道球腺が1対あって,尿道に通じている。これはカウパー腺ともよばれ,エンドウ豆大の粘液腺で,女性のバルトリン腺にあたる。この分泌物は無色透明の粘稠性のある液体で,射精に先だって性的興奮によって亀頭をうるおす。したがって精液の成分として,精子のほかに,上記の精囊,前立腺の分泌物とともに尿道球腺の分泌物も含まれるが,量的には前立腺の分泌物が大部分を占める。
男性性器のうち睾丸はホルモンの分泌も行う。曲精細管の間は間質結合組織から成っているが,この中に間細胞(ライディヒ細胞ともいう)があり,男性ホルモン(テストステロン)を分泌する。この細胞を電子顕微鏡で見ると,滑面小胞体が発達し,ミトコンドリアのクリスタが小管状である(この両構造はステロイド系の分泌細胞に特有)。また,この細胞にはときにラインケの結晶とよばれる封入体がみられる。
陰茎は,柱状の陰茎体とその先端につく亀頭から成る。陰茎体を包む薄い皮膚はメラニンが多くて色黒いが,包皮というひだをつくる亀頭では,皮膚の内面は滑らかで色素に乏しく,粘膜様である。陰茎体の皮下組織は脂肪を欠く代りに,まばらな平滑筋繊維の層が輪状に陰茎をとり巻く。その下層に陰茎筋膜がある。その内部にある海綿体が陰茎の主体をなすもので,陰茎体の背面にある陰茎海綿体と,下面にある尿道海綿体から成る。亀頭は,尿道海綿体の続きである海綿体からできている。尿道は尿道海綿体の中央を走り,亀頭の先端で開口する。海綿体はそれぞれ白膜というかたい結合組織板で包まれるが,陰茎海綿体を包む白膜は厚く(1~2mm),正中部で中隔となって陰茎海綿体を不完全に二分している。海綿体は文字どおり海綿状の組織で,網状に交錯する無数の小柱と,その間隙である洞(海綿体洞)からできている。海綿体洞は静脈腔であって,この腔が血液で充満することにより勃起が起きる。
陰茎には陰茎背動脈と陰茎深動脈がきているが,これらの動脈の小枝は海綿体の小柱の中をらせん状に蛇行して,らせん動脈となり,らせん動脈の先端は直接に海綿体洞に開いて,動静脈吻合(ふんごう)をなしている。海綿体小柱には交感神経と副交感神経の繊維がきており,性的興奮にさいして,らせん動脈と小柱の平滑筋がゆるむ。すると多量の動脈血が海綿体洞に流れこみ,白膜がぴんと張るまで膨大し,陰茎は勃起する。このさい洞内の血液は静脈から流出できない仕組みになっている。勃起が終わるときには,まず,らせん動脈の平滑筋が収縮し,新しい動脈血の洞内への侵入がやむ。小柱の平滑筋が収縮して海綿体が収縮し,静脈から血液が流出して勃起がおさまる。
卵巣は,卵子を作る器官であるとともに,女性ホルモン(卵胞ホルモンと黄体ホルモン)を分泌する内分泌腺でもある。骨盤腔の外側壁の近くにある1対の平たい楕円形の器官で,中心部の髄質と表層部の皮質に区別される。皮質の最表層は白膜とよばれるが,白膜の下,結合組織の間には,さまざまな成熟段階の卵胞や,それが変化して生じた黄体や白体が埋まっている。また卵巣の表面は,卵巣門の部分を除いて,腹膜でおおわれる。
原始生殖細胞は,胎生期に盛んに細胞分裂をして数を増して卵祖細胞となる。しかし卵祖細胞の分裂は出生の前にやみ,減数分裂の前期の状態に入り,以後は卵母細胞とよばれる(減数分裂は排卵時に行われる)。卵母細胞は思春期以後,順次成熟するまで,少なくも十数年,長いものは40年も,分裂前期の段階のまま卵巣の中にひそんでいる。未発達の段階の卵母細胞は1個ずつ扁平な卵胞上皮細胞に包まれ,一次卵胞(または原始卵胞)とよばれる。新生児では両側の卵巣に約40万個の一次卵胞(濾胞)が充満しているが,後述の卵胞閉鎖によって著しく減少する。卵胞の成熟が進むと,卵胞上皮細胞は分裂によって増加し,上皮は単層から多層へ変化し,二次卵胞となる。二次卵胞では卵母細胞と卵胞上皮の間に透明帯が現れる。これはヒアルロン酸を主成分とする粘液多糖類の層で,卵胞の成熟につれて厚くなる(電子顕微鏡で見ると,透明帯の中へ卵母細胞の微絨毛(じゆうもう)と卵胞上皮細胞の指のような小突起が無数に出て,両者が接触しあっている)。二次卵胞の卵胞上皮細胞は盛んに分裂して増殖し,上皮は多層化し,顆粒層とよばれる厚い細胞層を卵母細胞と透明帯のまわりにつくる。ついで顆粒層の細胞間にすき間ができ,それが拡大して卵胞腔となる。この状態の卵胞をグラーフ卵胞Graafian follicleとよぶ。卵胞腔の中の液(卵胞液)はしだいに増加し,周囲の卵胞上皮細胞も増加を続けて,グラーフ卵胞は直径2cmにも達する。一方,卵母細胞は,グラーフ卵胞の成熟につれて,その片すみに押しやられ,卵胞上皮細胞でおおわれた卵丘をなして卵胞腔に突出する。また卵母細胞は周囲から栄養を吸収して,直径100μmを超える大きさに成長する。透明帯の外側の1層の卵胞上皮細胞は丈が高く,きれいな放射状の配列を示すので,放線冠とよばれる。
二次卵胞の初期に,周囲の結合組織の細胞(繊維芽細胞)と膠原(こうげん)繊維が集まってきて卵胞膜を作る。卵胞上皮が多層化するころ,卵胞膜は,上皮様細胞から成り毛細血管がよく発達した内卵胞膜と,繊維に富む外卵胞膜が区別されるようになる。内卵胞膜細胞は卵胞ホルモン(エストロゲン)を分泌する。外卵胞膜は膠原原繊維が多量に走るなかに,繊維芽細胞がタマネギの皮のように扁平な形で重なっている。
グラーフ卵胞は直径2cmほどに成熟すると破裂し,卵胞液とともに卵子が放線冠をつけたまま腹腔内にとび出す。これが排卵である。排卵は約28日に1回,両側の卵巣に交互に起こるのが普通であるが,一側が正常に働かない状態のときには,片側だけで28日に1回の排卵が起こる。排卵のあとの卵胞はゆるんで,ひだがよった形になって血液を含んだ液胞を囲むが,2~4日のうちに顆粒層細胞が大きくなって厚い層をなすようになるとともに内卵胞膜の細胞も大きくなり,黄体とよばれる組織を作る。肥大した顆粒層の細胞は顆粒層ルテイン細胞とよばれ,内卵胞膜の細胞は卵胞膜ルテイン細胞とよばれる。両ルテイン細胞は内分泌細胞であって,黄体ホルモン(プロゲステロン)を分泌する。妊娠が起こらない場合の黄体は月経黄体とよばれ,排卵後10~12日ころに急速に退化しはじめ,肉眼的には白い瘢痕(はんこん)組織となる。これが白体である。妊娠が起こると黄体は増大を続け,盛んにホルモンを分泌する。これが妊娠黄体で,出産までは機能を発揮しつづけるが,出産後は白体となる。
新生児の卵巣は40万個もの一次卵胞を含むが,一生の間に排卵する卵子の数は400に足らぬ計算になる(性成熟期を30年=390月経周期として)。したがって大部分の卵胞は卵胞閉鎖として発育中止して退化,消失する運命にある。卵胞閉鎖は幼児期に最も盛んで,卵胞の大部分は6,7歳までに失われてしまう。卵巣からのエストロゲンの分泌は,ふつう45~50歳のある時期に低下し,消失する。卵胞が少なくなり,排卵もしばらくは不定期にみられるが,やがて完全に起こらなくなる。排卵がなければ黄体もできないからプロゲステロンもまた分泌されなくなる。月経も停止する。これが閉経期menopauseである。閉経期以後の卵巣では,2,3年で一次卵胞も二次卵胞もそれらの閉鎖像もまったく消失し,卵巣全体が萎縮して膠原繊維のかたまりと化していく。
卵管は10~15cmの長さの管で,一端は卵巣の近辺で腹腔に開き(腹腔口),他端は子宮の上外側隅で子宮腔に開いている(子宮口)。子宮口の近くは細くなっていて峡部とよばれる。腹腔口はラッパのように広がったうえに,ふさ状に深くきれこんで卵管采となり,また腹腔口に近いところの太い部分は膨大部とよばれる。卵管の粘膜は複雑なひだを作っているので,内腔はせまい迷路状になっている。ひだの表面は単層円柱上皮によっておおわれるが,この上皮は繊毛細胞と分泌細胞とから成る。分泌細胞の分泌物は卵子の栄養にあずかるものであろうと想像されている。上皮の細胞像は月経周期にともなって変化を示す。すなわち卵胞の成熟期には繊毛細胞が増加し,その高さが増して30μmにも達する。排卵後は分泌細胞が優勢となる。
排卵によって腹腔にとび出した卵子は,卵管の腹腔口から吸いこまれて卵管内を子宮のほうへ移動し,膨大部で精子と出会い受精するといわれる。受精卵は細胞分裂をくりかえしつつ,さらに移動して子宮に入り,子宮内膜に着床する。卵子が卵管に取りこまれる機転は,まだ十分に解明されていない。
子宮は前後から圧平された西洋ナシの形をしており,上方の丸みをおびた部分を子宮体(その内部の腔所を子宮腔という),下方の細く管状の部分を子宮頸(内部の管状の腔所を子宮頸管という)とよぶ。体の左右の上隅に卵管が開き,頸の下端部は腟に突出して子宮腟部とよばれる。子宮の壁は1~1.5cmの厚さがあり,内方から外方へ粘膜すなわち子宮内膜と筋層,漿膜(子宮外膜)から成る。子宮内膜は単層円柱上皮でおおわれ,その下に粘膜固有層がある。固有層を貫いて多数の子宮腺があり,筋層に達している。
月経によって子宮体の内膜(粘膜固有層)の大部分(機能層)ははげ落ちて,深層の一部(基底層)だけが残る。ついで月経から約2週間,排卵までの時期は,卵巣の卵胞からエストロゲンが分泌されている時期で,子宮内膜はこのホルモンの作用をうけて厚くなる。この時期を増殖期という。排卵後2日ほどで黄体が形成され,プロゲステロンが分泌されはじめると,子宮腺が著しく活発に分泌活動を行う。この時期を分泌期という。この時期は妊娠の起こらぬかぎり10~12日続いて終わる。この時期の末期に子宮内膜の機能層は血行障害を起こして,はげ落ちる。
筋層は厚さ1cmを超える平滑筋の層で,主として子宮の長軸を輪状にとり巻くように走る。筋繊維は妊娠にさいして数を増す一方,細胞の一つずつも大きくなり,非妊娠時の数十倍の長さと数倍の太さに達する。
子宮頸の内面は丈の高い単層円柱上皮でおおわれ,粘膜固有層内に多数の子宮頸腺があるが,月経周期に伴って組織の剝離(はくり)などは起こらない。子宮頸腺はアルカリ性の粘液を分泌するが,この粘液が子宮頸管をふさいで,腟(酸性)からの細菌などの侵入を防いでいる。しかもアルカリ性の環境は精子にとっても好都合で,精子の運動が活発化する(なお精液もアルカリ性で,このことにより精液は酸性の腟を通るときに精子を保護する役目もする)。
腟は子宮と外性器をつなぐ長さ数cmの粘膜の管である。交接器と産道の役をなす。粘膜はひだをなし,粘膜をおおう重層扁平上皮の表層部の細胞はグリコーゲンを含有する。腟腔内にはデーデルライン杆菌(腟杆菌)がおり,これがグリコーゲンを分解して乳酸を作るために腟内は酸性に保たれ感染防御に役立っている。これを腟自浄作用という。
外性器(外陰部)として陰核,腟前庭,小陰唇,大陰唇(陰唇)などがある。陰核は,またの前上方に位置し,その下は左右に分かれて1対の小陰唇があり,それを外側から左右1対の大陰唇がおおう。左右は小陰唇,前上方は陰核に囲まれたへこみが腟前庭である。腟前庭の上部に外尿道口があり,後下方に腟口がある。また腟との境には処女膜とよばれる粘膜のひだがある。陰核は男性の陰茎に相当し,内部に陰核海綿体がある。ここには多数の神経繊維束が終わり,陰部神経小体を形成する。腟前庭は男性の尿道の前立腺部にあたり,大前庭腺と小前庭腺があり,粘液を分泌する。大前庭腺はバルトリン腺ともよばれ,男の尿道球腺にあたる。小陰唇は男性の陰茎の皮膚に相当し,その表面は皮膚の重層扁平上皮におおわれる。汗腺はなく,メラニンに富む。大陰唇は男の陰囊に相当し,皮下脂肪に富んだ厚い皮膚のひだで,左右のものが恥骨結合の前で相会して恥丘となっている。恥丘と大陰唇には思春期以後,陰毛を生ずる。大陰唇の内・外側面とも脂腺と汗腺が発達する。
→交尾 →性器崇拝 →性交
執筆者:藤田 尚男
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