カニバリズム(読み)かにばりずむ(英語表記)cannibalism

翻訳|cannibalism

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カニバリズム」の意味・わかりやすい解説

カニバリズム
かにばりずむ
cannibalism

人間が人間を食べる慣習カニバリズム語源はカリブ人Caribであるといわれる。ヨーロッパ人がアメリカ大陸に到達したころ、現在のカリブ海の諸島に住んでいたカリブ人が人食い人種として紹介されたためである。飢饉(ききん)や遭難などの危機的極限状況における食人行為や異常嗜好(しこう)としての食人ではなく、慣習としての食人はさまざまな社会について報告されている。また古くは原人段階で食人がなされたとする説もある。

 だれを食べるかによって、食人を内食人と外食人に分けることがある。前者は自己が属する集団の成員、たとえば親族や家族を食べる。後者は他集団の者、そのうちでもよくみられるのは敵を食べる食人である。食人の動機、目的としては飢餓のほか、なんらかの特別な力を獲得するためというのが多い。被害者がもつ力や資質を自分のものにするため、とくに脳や心臓を食べる。妖術(ようじゅつ)や邪術の力を得るために食人を行ったり、人間の肉を病気を治す薬として食べる例も多い。人肉は呪(じゅ)的な力をもっていると考えるからである。復讐(ふくしゅう)のために敵の肉を食べたり、のちに復讐を受けないようにするため、殺した人間の肉を食べることもある。また神に対して人身供犠を行い、その肉を食べる宗教儀礼としての食人もある。死者との結び付きを強調するための食人もあり、この場合死者と永遠に一つとなるよう死者の肉を食べる。キリスト教聖体拝受を象徴的な食人と解することもある。

 カニバリズムについてのこれらの従来の解釈のほか、近年、注目される二つの説がある。一つはM・ハーナーやM・ハリスによって提出された説で、タンパク質の不足を補うために食人を行ったと考え、アステカにおける人身供犠と食人をはじめとする例を用いている。もう一つはカニバリズムの存在そのものを疑う説で、W・アレンズは、食人の記録はほとんどが伝聞や間接情報であり、食人を確実に証明する資料はないという。文化人類学者によるフィールドワークでは、現在も食人を行っている社会の報告はないので、食人が実際に存在したかを確かめることは今日ではむずかしい。ただし、1960年ごろニューギニア高地で流行したクールーという病気が食人によって感染するという医学的報告例がある。

 食人の慣習の存否は別にして、食人するとされるのは、自己社会から遠く離れた辺境地域、敵対する隣接集団、あるいは自己集団内の妖術師であることが多い。また食人はしばしば近親相姦(そうかん)とともに語られ、両者とも反社会的、反文化的行為の象徴である。この場合、そのような野蛮なことを行う人間を想定することによって、逆に自らの社会、文化とその境界を明確にしようとすると考えることができる。

[板橋作美]

『W・アレンズ著、折島正司訳『人喰いの神話』(1982・岩波書店)』


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