思考経済(読み)しこうけいざい(その他表記)Denkökonomie[ドイツ]

改訂新版 世界大百科事典 「思考経済」の意味・わかりやすい解説

思考経済 (しこうけいざい)
Denkökonomie[ドイツ]

科学思考ないしは理論を規制する準則の一つ。〈節減法則〉とも呼ばれる。科学の目標は〈最小の思考の出費で事実をできるだけ完全に記述する〉(マッハ)ことにある,と定式化される。その源流中世の〈オッカム剃刀かみそり)〉にさかのぼる。19世紀末にマッハおよびアベナリウスが,これを経験批判論の基本原則としたところから一般に広まり,論理実証主義に引き継がれた。現代の科学哲学では,理論の〈単純性の原理〉として言及されることが多い。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の思考経済の言及

【アベナリウス】より

…自然的世界概念は,それを〈最小力量の原理〉に従って記述することにより,はじめて十全に理解される。〈最小力量の原理〉はマッハの思考経済と相呼応する概念であるが,アベナリウスはこれが科学理論においてのみならず自然そのものや人間生活においても働いていると考えた。また彼の言う〈自然的世界〉は,フッサールの〈生活世界〉概念の一つの先駆と目される。…

【経験批判論】より

…影響はおもにドイツ語圏内にとどまったが,イギリスのK.ピアソンにも同様の思想が見られる。物理的事象と心理的事象,主観と客観,意識と存在などの二元論的仮定や,実体,因果などの形而上学的付加物を排除し,その結果得られる純粋に経験的な世界概念を思考経済に従って記述することを認識の目標と考えた。〈物心二元論の克服〉および〈直接与件への還帰〉というテーゼは,W.ジェームズの根本的経験論,ベルグソンの生の哲学,西田幾多郎の純粋経験論などと軌を一にする19世紀末の基本思潮であった。…

【マッハ】より

…哲学上の主著は《感覚の分析》(1886)および《認識と誤謬》(1905)であり,その基本思想はアベナリウスらとともに経験批判論の名で呼ばれる。彼は旧来の形而上学的カテゴリー(実体,因果など)および物心二元論の仮定を排し,世界を究極的に形づくるのは物理的でも心理的でもない中性的な感性的諸要素(色,音,熱,圧等々)であるとし,これら諸要素間の関数的相互依属関係を思考経済の原則に従ってできるだけ簡潔かつ完全に記述することが科学の任務であるとした。こうした要素一元論の世界観を背景にマッハは現象主義的物理学を唱えて原子論を否定し,実在論の立場から原子論を擁護したプランクおよびボルツマンとの間に激しい論争を展開したことは有名である。…

※「思考経済」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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