中古から中世にかけては「かうぞり」とも言ったが、近世には「かみそり」が一般化した。「物類称呼‐四」に「西国にてかみそりと云 奥州白河にてかみすりと云」とある。
ひげ,まゆ毛など体毛の除去および,髪形を整えるのに用いる刃物。旧石器時代には,ひげ・体毛の処理には貝殻,動物の骨,サメの歯,フリントの石刃(せきじん)などを用いた。この方法は,その後も地域により継続された。15世紀にアメリカ大陸に渡ったトルケマダの記録には,インディアンの持っていた黒曜石の石刃を借りて,ひげをそったとある。青銅器の発見に伴い,各種の刃物が作られるようになると,体毛を〈そる〉ようになった。古代エジプト上流階級では,かつら(鬘)を着用するため頭髪をそる必要があったが,初期のかみそりは三日月型,手斧型で,新王国時代になると現在のレーザー(西洋かみそり)に似た,細長い刃と柄のある折りたたみ式が使われた。北欧地域では戦士の墓の副葬品として,刀剣類とともにかみそりが納められた。当時のかみそりは呪術的な意味を備えていたと思われる。レーザーと称される折りたたみ式の両刃(もろは),すなわち身の両辺から刃がつけられたかみそりが使われるようになったのは,前6世紀ころの古代ローマであったという。当時,ひげは男らしさの象徴とされており,また青銅・鉄製のかみそりは切れ味が悪く,使用中に皮膚を傷つけることも多かったので,それほど普及しなかったといわれる。そのため,はさみ,毛抜きを使ったり,ロバの脂肪やキスゲの樹脂で作った脱毛剤なども用いられたという。
中世以降のヨーロッパでは,ドイツのゾーリンゲン,イギリスのシェフィールド等で刃物産業が発展し,より優れたレーザーが作られるようになった。しかし素人がひげをそるには危険が伴うため,安全性への試みが18世紀後半から行われた。なかでも,刃の片面にガードを取り付けるくふうや,1847年イギリスで考案されたT字型の柄は,安全にひげをそるために役立った。1895年アメリカ人K.C.ジレットにより,替刃式安全かみそりが考案され,1904年には販売数1240万枚を記録した。その後,替刃の材質が炭素鋼からステンレス鋼に変わるなど,細かな改良が加えられ,現在も使用されている。
かみそりが日本に伝えられたのは6世紀中ごろで,仏教徒の剃髪の儀式に用いられた。《和名抄》にも,僧坊具として記録されているが,一般には髪やひげを整えるためには毛抜きを用いたという。武士が月代(さかやき)をそる習慣を始めたのは,貝原好古の《和漢事始》では織田信長とされており,それが広く普及したのは16世紀末以降である。当時のかみそりは刀鍛冶によって作られる打刃物で,貴重であった。片刃で,ひぞこのある点などが西洋かみそりと異なっている。明治時代になると理髪用具とともに西洋かみそりが入ってきた。アメリカで替刃式安全かみそりが製造されたのとほぼ同時期に,日本でも刃をホールダーにはさんで使用する型式のかみそりが考案されたが普及せず,明治末期には替刃式安全かみそりが輸入された。安価な国産品が量産されて普及するのは,昭和初期以降のことである。使い捨ての軽便かみそりは,安全かみそりの替刃の廃物利用から生まれたが,第2次大戦後とくに生産数量が伸び,近年は女性の顔そり用など種類も豊富である。
アメリカの退役軍人J.シックにより考案され,1931年に発売された。2枚の刃がバリカンのようにかみあってそるもので,刃の運動により往復式と回転式がある。動力源としてはモーターまたはマグネットが用いられている。電気かみそりのひげそりでは,すべりを良くするためのセッケンを用いる手間が不用なため急速に普及した。しかし,半数以上の人が安全かみそりや軽便かみそりを併用している。
執筆者:徳村 薫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
中村吉蔵(きちぞう)作の戯曲。1幕。1914年(大正3)7月『中央公論』臨時増刊号に発表。同年10月帝劇で芸術座が初演。東京近郊の理髪店主木村為吉(ためきち)は家が貧乏で親の職業を継いだが、小学校の級友であった岡田秀作の家は金持ちで、彼は出世して政府高官、代議士となり故郷に錦(にしき)を飾る。剃刀の奴隷のようになって毎日を送る為吉は、いらだって散髪にきた岡田の首に剃刀を突き立てる。貧富の差により人の一生が決定される現実の社会機構を批判的に描いた、大正期社会劇の代表作であり、作者の転機を促したヒット作。初演以来335回の上演を記録し、『復活』とともに芸術座の主要な上演演目となった。
[藤木宏幸]
『『現代日本戯曲選集2』(1955・白水社)』
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