ドイツの哲学者。パリに生まれ,ライプチヒ大学に学ぶ。1877年ウィンデルバントの後任としてチューリヒ大学教授に招聘され,没年までそこで教鞭をとった。経験批判論の創始者として〈純粋経験〉に基礎を置く徹底した実証主義を唱え,マッハとともに後の論理実証主義の展開に大きな影響を与えた。主著は《純粋経験批判》全2巻(1888-90)および《人間的世界概念》(1891)であるが,独特の用語と難解な記号法をもって書かれているため,マッハの思想に比べて人口に膾炙(かいしや)しなかった。哲学の任務は主観・客観の分離に先立つ〈純粋経験〉に基づいた〈自然的世界概念〉を再興することにある,とした。知識の唯一の妥当な源泉である〈純粋経験〉は,主観の〈投入作用〉によって経験の中に持ち込まれた形而上学的カテゴリーや実在の物心二元論的解釈を排除することによって獲得される。自然的世界概念は,それを〈最小力量の原理〉に従って記述することにより,はじめて十全に理解される。〈最小力量の原理〉はマッハの思考経済と相呼応する概念であるが,アベナリウスはこれが科学理論においてのみならず自然そのものや人間生活においても働いていると考えた。また彼の言う〈自然的世界〉は,フッサールの〈生活世界〉概念の一つの先駆と目される。彼の思想は唯物論の立場に通ずると解されたため,マルクス主義者の中にも多くの共鳴者を見いだし,ためにレーニンは《唯物論と経験批判論》(1909)の中で,この傾向を厳しく批判した。
執筆者:野家 啓一
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ドイツの哲学者。1877年より没年までチューリヒ大学教授。徹底した実証主義の立場にたち、オーストリアの物理学者・哲学者のマッハとともに経験批判論の創始者として知られ、後の論理実証主義の展開に大きな影響を及ぼした。主著に『純粋経験批判』2巻(1888~1890)がある。彼によれば、哲学の任務はいっさいの形而上(けいじじょう)学的概念を除去して純粋経験に立ち戻り、それを最小力量の原理に従って記述することを通じて、自然的世界概念を回復することにあるとされる。そして、人間経験の全領域を数学的操作で記号化しようとしたが、その思想は唯物論の陣営からの激しい批判を招いた。
[野家啓一 2015年2月17日]
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…純粋経験に基礎を置く実証主義的認識論の一形態。アベナリウスおよびマッハによって創始され,ペツォルトJ.Petzoldt,ゴンペルツH.Gomperzらによって受け継がれた。影響はおもにドイツ語圏内にとどまったが,イギリスのK.ピアソンにも同様の思想が見られる。…
…その源流は中世の〈オッカムの剃刀(かみそり)〉にさかのぼる。19世紀末にマッハおよびアベナリウスが,これを経験批判論の基本原則としたところから一般に広まり,論理実証主義に引き継がれた。現代の科学哲学では,理論の〈単純性の原理〉として言及されることが多い。…
※「アベナリウス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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