怪し(読み)ケシ

デジタル大辞泉 「怪し」の意味・読み・例文・類語

け・し【怪し/異し】

[形シク]
あるべき状態と異なっている。非難すべきである。
「はろはろに思ほゆるかも然れども―・しき心をが思はなくに」〈・三五八八〉
納得がいかない。変だ。→けしかるけしゅう
「こなたざまならでは、方も(=方角モ塞ガラナイラシイ)、など―・しくて」〈かげろふ・中〉

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「怪し」の意味・読み・例文・類語

し【怪・異】

  1. 〘 形容詞シク活用 〙 ( 「け(異)」に形容詞語尾の付いたもの )
  2. あるべき状態と異なっているさま。非難すべきである。よくないさま。
    1. [初出の実例]「韓衣裾のうちかへ会はねども家思吉(ケシキ)心を吾が思(も)はなくに」(出典万葉集(8C後)一四・三四八二)
  3. 変わっていることに対して不審に思うさま。あやしげである。異様である。
    1. [初出の実例]「この女かくかきをきたるをけしう心をくべきこともおぼえぬをなにによりてかかからむといといたうなきて」(出典:伊勢物語(10C前)二一)
  4. 怪しいまでに程度がはなはだしいさま。ひどい。病気などが重い。劣っている。通常、「けしうはあらず」「けしうはあらじ」の形で用いられることが多い。
    1. [初出の実例]「けしうつつましきことなれど、尼にとうけ給はるには、むつまじきかたにてもおもひはなち給ふやとてなん」(出典:蜻蛉日記(974頃)下)
    2. 「さるまじらひせんにも、けしうは人におとらじ」(出典:宇津保物語(970‐999頃)嵯峨院)

怪しの語誌

( 1 )形容動詞「けなり」と同根。
( 2 )中古になると連用形ケシクとその音便形ケシウが意味で用いられることが多くなる。またケシウはのように打消を伴い、「たいして良くない」「たいして悪くない」「格別なことはない」の意味で使用されることが多くなる。
( 3 )さらに「けし」を否定した形の「けしからず」が意味的には肯定に使われることが多くなり、近世以降はこの「けしからず」が「けし」にとって替わった。→けしかるけしからず

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