内科学 第10版 「悪性腫瘍と糸球体腎炎」の解説
悪性腫瘍と糸球体腎炎(悪性腫瘍と腎障害)
概念
悪性腫瘍やそれに対する治療によりしばしば糸球体腎炎を生ずる.また,糸球体腎炎に対する治療薬によっても悪性腫瘍が発生する可能性が指摘されている.悪性腫瘍に伴う腎疾患では膜性腎症が有名であるが,その他,頻度は少ないが白血病や悪性リンパ腫に微小変化ネフローゼ症候群や巣状分節性糸球体硬化症が合併することが知られている.
病因
膜性腎症については悪性腫瘍の手術的摘除あるいは化学療法により寛解が得られ,腫瘍の再発により膜性腎症が再発することが知られている.また,癌特異抗原や抗体の糸球体沈着が証明されており免疫複合体による腎疾患と考えられている.
疫学
膜性腎症の7〜20%に悪性腫瘍が見いだされるといわれ特に50歳以上の高齢者で多く認められる.膜性腎症では同年代の人に比べて明らかに悪性腫瘍の合併率が高いとされている.
臨床症状
1/3は腎症が表れる以前に悪性腫瘍が明らかであり,1/3は腎症と悪性腫瘍が同時に発見され,1/3は悪性腫瘍の経過中に腎症が明らかになるとされている.悪性腫瘍に伴う膜性腎症の臨床症状はネフローゼ症候群を呈するなど特発性のものと同様であり,50歳以上の膜性腎症患者では悪性腫瘍の存在を検索することが重要である.
腎組織像
悪性腫瘍に伴う膜性腎症の腎組織像は特発性のものと同様であり区別できない【⇨11-3-7)】.
治療
悪性腫瘍の治療をすることが重要である.膜性腎症に対するステロイド治療は悪性腫瘍を進行させるので好ましくない.[山辺英彰]
■文献
Cohen EP ed: Cancer and the Kidney. Oxford University Press, 2011.Glassock RJ: Other glomerular disorders and antiphospholipid syndrome. In: Comprehensive Clinical Nephrology (Floege J, Johnson RJ, et al ed), pp335-343, Elsevier, St.Louis, 2010.
新田孝作:腎障害をきたす全身性疾患―最近の進歩 悪性腫瘍と腎障害.日内会誌,100: 1330-1335, 2011.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報