日本大百科全書(ニッポニカ) 「憲法尊重擁護の義務」の意味・わかりやすい解説
憲法尊重擁護の義務
けんぽうそんちょうようごのぎむ
憲法の規定や精神に対して忠誠を尽くすよう求めた義務。道義的・政治的義務と解されている。この種の義務は立憲国家として当然の要請ともいえるが、為政者がしばしば憲法を無視して国民の権利を侵害した経験から、1791年のフランス憲法やアメリカ合衆国憲法以来、各国の憲法典で宣言されることが多い。日本国憲法(99条)は、天皇・摂政(せっしょう)・国務大臣・国会議員・裁判官をはじめとする公務員は「この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と規定した。これでは一般国民の義務が明らかでないと批判する者もいるが、この義務の由来からして欠陥などではないと解するのが普通である。
憲法尊重擁護の義務は、日本国憲法や日本国政府を暴力で破壊することを主張する政党や団体を結成したり、これに加入した者から公務員就任能力を奪うほか(国家公務員法38条5号、地方公務員法16条5号)、入職時に憲法遵守の宣誓を行わせる根拠になる(職員の服務の宣誓に関する政令)。しかし在職中の忠誠審査は、思想・良心の自由を侵すおそれが強く、実施されてはいない。
[佐々木髙雄]