訴訟において,証人・鑑定人が陳述をする際,また通事ないしは通訳人あるいは翻訳人が,通訳・翻訳をするにあたり,それぞれ良心に従って真実を述べ,または誠実に鑑定・通訳・翻訳をすることを誓うこと(民事訴訟法201条,216条,154条2項,刑事訴訟法154条,166条,178条)。宣誓した証人等が虚偽の陳述をすれば,偽証罪に問われる(刑法169条,171条)。宣誓は,まず宣誓の趣旨を説明し,偽証の罰を告げたうえで,宣誓書を朗読させ,かつ宣誓書に署名押印させることによってなされる。原則として尋問の前に,起立して厳粛に行われなければならない(民事訴訟規則112条)。
宣誓は,本来宗教的な意義を有し,その面から陳述の真実性を担保しようとするものであり,西洋では神に誓う形式を採っている国もある。これに対し,中国では証人に宣誓が要求されておらず,日本でも宗教的色彩は希薄であり,宣誓文中にも宗教的色彩は現れていない。現在,陳述の真実性を担保するものは,あるとしても主として偽証罪による処罰である。
証人は原則として宣誓をする義務があるが,16歳未満の者,そのほか宣誓の趣旨を理解することができない者は宣誓をせずに証言することができる(民事訴訟法201条2項,刑事訴訟法154条,155条)。もっとも,証人は自己または自己と密接な関係にある者に著しい利害関係のある事項につき尋問を受けるときは,宣誓を拒むことができるし,また裁判所から免除されることもある。宣誓を正当な理由なく拒んだ場合には,過料,拘留,罰金等に処せられる(民事訴訟法201条5項,刑事訴訟法160条,161条)。さらに,民事訴訟には,当事者尋問における当事者本人の宣誓(民事訴訟法207条1項)の制度があり,これらの場合に虚偽の陳述をしたときは,過料に処せられる。なお,議院に出頭する証人についても,同様の意味をもった宣誓の制度がある(議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律(議院証言法)2条,3条,4条)。
執筆者:高田 裕成
公務員となった者が,職務を執行する以前に,国民に対し,国民全体の奉仕者として(憲法15条2項)公共の利益のために勤務すべき責務を自覚すること,日本国憲法を遵守し(99条。憲法尊重擁護義務)法令に従うこと,ならびに公務員としてその他の公務員法上の義務を守ることなどを誓約することをいう。アメリカ法の影響を受けて,新憲法の下で公務員制度のなかにもりこまれた(国家公務員法6条,97条,地方公務員法31条等)。精神的訓示的なものであるが,宣誓書の署名および提出拒否は,懲戒事由に該当するとされている。
執筆者:佐藤 英善
ゲルマン時代において宣誓は,自然力に対して,真実性(身の潔白)を誓う行為(雪冤宣誓)であり,これには自身の人格と財産とが賭けられる。このため,偽りの宣誓をしたときは,自然力(電光)などによって身を滅ぼされると考えられた。この点では,神判に近い性格を有している。通常宣誓は被告だけでなされるのではなく,多くは氏族団体(ジッペ)の成員を伴ってなされた。そこでは個々の事実の真実性が問題とされるのではなく,全人格,名誉が問題となっており,したがって宣誓補助者は,係争の事実に対してなんら知識をもっている必要はなかった。中世以降,宣誓は神に対するものとなり,法生活の面では,断言的宣誓と約定的宣誓とに分類されうる。前者は,裁判で現れるものであって,主張されたことが真実であることにつき,訴訟当事者の一方のみが,裁判官の命令により,または,相手当事者からの要請により,宣誓を行う。宣誓は,独立の証拠方法の一つであり,通常用いられるようになった。また宣誓補助者はみずから経験した事実の宣誓を求められるようになり,証人に転化していった。原告や裁判官による弾劾の宣誓も頻度を増した。約定的宣誓は,宣誓者自身の将来の行為に関するものであって,これは,いわゆる誓約である。
執筆者:塙 浩
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ラテン語ではiusiurandum、英語ではoath、ドイツ語ではEid、フランス語ではsermentというが、宣誓は非常に古い時代にはいずれの社会にもみられ、呪術(じゅじゅつ)的な力ないし自然の力に対して自身と財産を賭(か)け、自分の真実性を誓う行為(自己呪詛(じゅそ))であり、偽誓すれば呪力の復讐(ふくしゅう)を受けるものと考えられた。やがて呪力の復讐は神による制裁の観念へ変わった。宣誓には真実宣誓と約定宣誓とがある。前者は、一般に裁判にかかわる宣誓で、古ローマの神聖賭金(ときん)式法律訴訟にみられ、古ゲルマン時代の身の潔白を証明する雪冤(せつえん)宣誓もこれに属する。後者は、宣誓者の将来の行為について約束する要式行為であって、ローマの政務官の就任時の宣誓や問答契約もこれにあたると考えられ、また、ヨーロッパ中世の主従契約、全自由民のフランク王に対する臣民宣誓、宣誓共同体としてのスイス連邦など多数の例をみることができる。
このように宣誓は、法制史上裁判ばかりでなく国家形成においても、重要な役割を果たして今日に至った。
[佐藤篤士]
国家公務員法および地方公務員法上、新たに職員となった者は職務に従事するまえに宣誓書に署名して任命権者に提出しなければならないとされている。その文言は、国家公務員の場合、「職員の服務の宣誓に関する政令」により、「宣誓書 私は、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務すべき責務を深く自覚し、日本国憲法を遵守し、並びに法令及び上司の職務上の命令に従い、不偏不党かつ公正に職務の遂行に当たることをかたく誓います」という書面に年月日を入れ、氏名をサインすることになっている。地方公務員の宣誓書の様式は条例で定められ、地方自治の本旨の尊重といった文言が入れられる。警察官、消防職員には別の様式がある。
なお、国会の各議院の証人も「良心に従って、真実を述べ、何事もかくさず、又、何事もつけ加えないことを誓う」旨が記載されている宣誓書を朗読し、署名捺印(なついん)する(議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律=議院証言法)。
[阿部泰隆]
証人、鑑定人、通事(通訳人)、翻訳人等が、供述、鑑定、通訳、翻訳する際、それぞれの良心に従って真実を述べ、または誠実に鑑定、通訳、翻訳することを誓うこと(民事訴訟法154条2項、201条、216条、刑事訴訟法154条、166条、178条)。民事では、ほかに、当事者尋問において当事者の宣誓が認められ(民事訴訟法207条)、また宣誓した当事者が虚偽の陳述をしたときは過料に処せられる(同法209条)。宣誓の趣旨を理解することができない者には宣誓をさせなくてもよく、民事の場合には16歳未満の者も一律宣誓義務がない(刑事訴訟法155条、民事訴訟法201条)。宣誓は、事前に宣誓書によって行う(民事訴訟規則112条、刑事訴訟規則117条、118条、128条、136条)。ただし、民事の場合には、特別な事由があれば事後に宣誓させることもできる(民事訴訟規則112条)。正当な理由なく宣誓を拒否した場合には、過料・費用賠償を命ぜられる(民事訴訟法201条、刑事訴訟法160条)ほか、罰金・拘留など刑罰の制裁もある(民事訴訟法201条、刑事訴訟法161条)。適法に宣誓したうえ虚偽の供述、鑑定、通訳、翻訳をすると刑法上の偽証罪になる(刑法169条、171条)。
[大出良知]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…場合によっては手の形を書くこともあった。つまり,十字はその上に手を置いて宣誓したことを示すものであり,初期中世の〈口頭宣誓の原則oralism〉の影響をとどめている。署名は本来口頭の宣誓を補完するものであったと考えてよいであろう。…
…都市は創設者が聖界・俗界いずれの者であれ,世俗の施設として生まれたのである。しかしながら今でもロンドン市長が就任するときに教会で宣誓をするように,都市は世俗的な制度ではあってもキリスト教の現世と彼岸の構図のなかで独自の位置をもっているのであった。どのような人でも市民となるときにはキリスト教の教義に基づいて宣誓をしなければならなかったのである。…
※「宣誓」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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