日本大百科全書(ニッポニカ) 「手形の偽造・変造」の意味・わかりやすい解説
手形の偽造・変造
てがたのぎぞうへんぞう
手形の偽造とは、権限がないのに他人名義の手形行為の形式をつくりだすこと。たとえば、Bが権限がないのに他人Aの名義を使用して手形行為をすることをいい、その方法としては、署名を偽造したり、印章を盗用または偽造して記名捺印(なついん)による他人名義の手形行為の形式をつくりだす場合などがある。被偽造者は手形上の責任を負わないが、偽造者については、手形法第8条の無権代理に関する規定の類推適用によって責任を負わすべきであると解する説と、偽造者の氏名が手形面上に表れていないことを理由に、民事上・刑事上の責任は別として、手形上の責任を否定する見解とがある。しかし、近時の有力説は、偽造者Bが自己を表示する名称として被偽造者Aの氏名を使用したものであり、手形上に記載されているA名義の署名はいわばB自身の署名であるから(偽造者Bが「A」を自己の別名として使用しているものと解する)、偽造者Bは当然に手形上の責任を負うと解している。
手形の変造とは、権限がないのに手形の記載事項を変更することで、いわば手形債務の内容を変更することをいう。手形の変造は手形金額に関するものが多いが、これに限らない。変造の方法としては、既存の記載を抹消してこれにかわる新しい記載をするのが普通であるが、単なる抹消または新しい記載のみによってもなしうる。手形の変造があった場合には、変造後の署名者は変造後の文言に従って責任を負うが、変造前の署名者は原文言に従って責任を負う(手形法69条・77条1項7号)。
[戸田修三]