法律上の権利義務の主体としての表示。慣用的に使われており,法典上の用語としては株式取引に関する場合以外にはほとんどない。単に名,氏名と呼ばれることもあり,また営業上用いられる場合には商号とも呼ばれる。
人が物を所有したり,契約を結んだりする場合,通常はその本人が自分の名を表示する。この場合には本人名義で物を所有し,本人名義で契約を締結したこととなる。たとえば,土地の所有者Aが自分の所有地の土地登記簿の所有者欄にAの名を表示している場合,自動車の所有者Aが自動車の自動車登録ファイルの所有者欄にAの名を表示している場合,土地の売買契約において買主であるAが契約書上の買主の欄にAの名を表示して押印したような場合,Aが自分の現金を銀行に預金してAの名を表示した預金口座を開設したような場合には,それぞれA名義の土地,A名義の自動車,A名義の契約書,A名義の預金と呼ばれる。株式会社においては法律上正当な株主の氏名等は会社の株主名簿に記載される(商法206条1項)。旧株主から新株主へと株式の移転があった場合に株主名簿上の氏名を変更することを名義書換え,その手続を会社に代わって代行する証券代行会社等を名義書換代理人(175条2項)という。
名義にはそれが登記簿・登録簿その他法律の定める一定の帳簿に記載されるとその名義人が正当な権利者として法律上保護される場合がある(不動産につき不動産登記簿への登記--民法177条,自動車につき自動車登録ファイルへの登録--道路運送車両法5条,特許権につき特許原簿への登録--特許法98条)。また,夫婦の一方が婚姻中に自分の名義で財産を取得した場合には,その者固有の財産として取り扱われ,夫婦の共有財産には属さない(民法762条)。
契約を締結したり取引をする場合にはその行為者が自分の名義を使用するのが原則であって,他人の名義をかってに使用すると詐欺罪(刑法246条)あるいは取引行為の場合には不正競争行為(不正競争防止法1条,5条)として処罰されることもある。これに反して名義人の承諾,了解,依頼の下に他人名義を使用することは許容される。代理制度(代理)は依頼に基づいて代理人が他人名義の契約等を締結するものであり,また,取引上で他人の商号をその了解,承諾に基づいて使用することをとくに名板貸(ないたがし)(名義貸ともいう。商法23条。〈名板貸契約〉の項参照)という。このような場合本人は代理人の代理行為に対して法律上の責任を負い(民法99条)また名板貸人は名板借人の取引上の債務につき連帯責任を負う。
名義に関して法律上の紛争を生ずるのは,名義人と実際の権利者とが異なっている場合である。たとえば,課税,強制執行に備えて財産を隠すために他人の名義を借用するような場合(たとえば,友人名義の不動産取得,妻名義の預金),法律上は実際の権利者が正当な権利者として取り扱われることとなり,名義人が正当な権利者となるわけではない。ただし,名義人を正当な権利者であると誤解して,たとえば単なる名義人から所有名義の不動産を購入した者は所有権を取得することができるように,仮装行為を信頼した第三者は法律上保護されるのが原則である(虚偽表示。民法94条)。また,自分が自動車の所有者でないのに自分の名義で登録することを他人に許容した場合には,その者の起こした交通事故についても損害賠償責任を問われることもある。
執筆者:栗田 哲男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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