手形上になされる法律行為のことで、為替(かわせ)手形については手形の振出し(手形の発行)・裏書(証券上の権利者がその証券に所要事項を記載して署名し、これを相手方に交付すること)・引受け(支払人が手形金額の支払義務を負担すること)・保証(手形保証、手形債務者の債務を他者が手形上で保証すること)・参加引受け(手形の満期前に引受拒絶などの遡求(そきゅう)原因が生じた際、遡求を阻止するために引受人以外の第三者が引受人と同一の義務を負担すること)の5種があり、約束手形については振出し・裏書・保証の3種がある。このうち、振出しはいわば手形を創造する行為であるから、これを基本的手形行為といい、ほかの4種は、振出しによって作成された基本手形の存在を前提としてなされるから、これを付属的手形行為という。いずれも、署名または記名捺印(なついん)を要件とする要式の書面行為である。手形行為の本質については学説の対立があり、通説は手形上の債務負担を目的とする法律行為と解しているが、手形行為を手形債務負担行為と権利移転行為とに分けて二元的に構成する見解も有力である。
手形行為が成立するためには、手形証券の作成だけで十分であるのか、手形の交付行為も必要であるのかにつき、「手形理論」の問題として論ぜられている。たとえば、Aが作成した手形を受取人に交付前にBが盗取し、これを善意者Cに譲渡した場合に、Aが手形債務を負担しCに支払いをしなければならないかにつき、契約説は、手形行為は手形の授受によりなされる契約であるから、Aは証券の交付をしていない以上手形行為は成立せず、したがってAは手形債務を負担しないと解する。これに対し、創造説は、手形の作成だけで手形債務が発生すると解するから、Aは当然Cに対し支払わなければならないことになる。もっとも、契約説によっても、署名された手形が第三者Cに譲渡されれば、外観上、交付契約があったとの表見的事実が存在するので、署名者は証券の交付がなくても手形債務を負うと解すべきであるとして(権利外観理論)、結果的に創造説と同じく、善意者の保護が図られている。なお、手形行為を債務負担行為と権利移転行為に分けて二元的に構成する見解によれば、債務負担については創造説によりAの手形上の責任を肯定したうえで、手形上の権利の移転については相手方との交付契約を要すると解するから、Bについては交付契約がない以上、手形上の権利はBに移転しないが、Cについては、善意取得によりAの手形責任を認めることになる。
手形行為は法律行為の一種であるが、手形の流通性を保護するために、手形行為独立の原則が認められている。すなわち、同一の手形上になされた手形行為はそれぞれ独立的にその効力を生じ、ある手形行為が実質的に無効(たとえば制限行為能力者による手形の振出しが取り消された場合や手形の偽造など)であっても、そのためにほかの手形行為の効力になんら影響を及ぼさない。また、手形行為についても、能力・意思表示・代理などに関する民法の一般原則が適用されるが、手形の流通性保護のために、若干の修正が加えられることもある。
[戸田修三]
形式的には,手形において,署名を要件とする要式の書面行為。振出し,裏書,引受け,保証および参加引受けの5種があり(約束手形には引受け,参加引受けはない),振出しを基本的手形行為,他の4種を付属的手形行為という。実質的には,手形上の債務の負担を目的とする法律行為とするのが伝統的な定義である。しかし,裏書は権利の移転を,また為替手形の振出しは支払の委託を,それぞれ意思表示の内容とするものであって,それらの行為者に償還義務(〈遡求権〉の項参照)が生ずるのは法定の効果にすぎないとみる立場からは,各種の手形行為を実質的内容の点で一元的に定義することはできない。形式的定義で満足するか,手形上の法律関係の発生または変動を目的とする法律行為,というような二元的定義をとることとなる。償還義務の発生をも第2次的な意思表示と認める立場から,手形上の債務の発生原因たる法律行為,とするものもある。
手形行為は法律行為の一種であるが,手形という書面を通じて意思表示がなされるところに,その本質的特色があり,この書面性の発展したものとして,さらに次のような特色が認められる。すなわち,手形行為は,その行為をなしたこと自体によって効力を生じ,その原因となった法律関係の不存在・無効によって影響を受けない(無因性)。行為の内容は,もっぱら手形上の記載によって決せられ,手形外の実質関係によって修正されない(文言性)。ある手形行為が実質的理由により効力を否定されても,その手形行為を前提とする他の手形行為は影響を受けることなく,独立して効力を生じる(手形行為独立の原則)。ただし法定の方式を欠くときは,当該の行為はもとより,その行為を前提とする行為も無効たらざるをえない(要式性)。以上のような特色のゆえに,手形上の記載を信頼することが可能となり,手形の流通性が増進される。
手形行為の成立要件については,手形作成行為だけで足りるとする創造説,署名者の意思による手形の占有移転を必要とする発行説,契約による手形の授受を必要とする契約説,さらには,手形行為を手形債務負担行為と権利移転行為とに分けて構成する説など,さまざまに見解が分かれているが,最近では,学説のいかんによって実際上の結果に差を生ずることは,ほとんどなくなっている。
手形行為の場合にも,行為者の能力,意思表示,代理などについては,法律行為に関する民法の一般原則が適用されるが,手形流通保護の見地からの修正が加えられることもある。小切手行為には,振出し,裏書,保証,支払保証の4種があるが,その特色,成立要件等は以上と同様である。
執筆者:今井 潔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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