打渡(読み)うちわたす

精選版 日本国語大辞典 「打渡」の意味・読み・例文・類語

うち‐わた・す【打渡】

〘他サ四〙
① (「うち」は、馬を進ませるの意) 渡り越す。乗り越える。
万葉(8C後)四・七一五「千鳥鳴く佐保の河門(かはと)の清き瀬を馬打和多思(うちワタシ)いつか通はむ」
② 打ちならべる。かけわたす。はりめぐらす。
※万葉(8C後)一一・二六九九「安太人(あだひと)魚梁(やな)打度(うちわたす)瀬を速み心は思へどただにあはぬかも」
③ (「うち」は接頭語) ずっと見渡す。
古事記(712)下・歌謡「さわさわに 汝が言へせこそ 宇知和多須(ウチワタス) 彌木栄(やがはえ)なす 来入(きい)参来(まゐく)れ」
古今(905‐914)雑体・一〇〇七「うちわたすをちかた人にもの申すわれそのそこにしろくさけるはなにの花ぞも〈よみ人しらず〉」
打渡し(二)①を実行する。
高野山文書‐応永二年(1395)五月三日・上野氏時打渡状「任去四月十五日之遵行之旨、早可渡高野山西塔雑掌之状如件」

うち‐わたし【打渡】

[1] 〘副〙 (多く、「橋」「かく」の縁語として用いられる)
① ずっと長い距離、長い時間にわたって。
※後撰(951‐953頃)恋一・五七〇「うちわたし長き心は八橋のくもでに思ふことはたえせじ〈よみ人しらず〉」
② おしなべて。すべて。おおかた。
源氏(1001‐14頃)宿木「うちわたしよにゆるしなき関川を見なれそめけん名こそ惜しけれ」
[2] 〘名〙
中世、引付頭人や管領命令および守護の伝達命令に従って、守護代や代官などが所領所職を現地で正当な知行人に引き渡すこと。
※高野山文書‐建武元年(1334)一二月日・南部庄年貢未進注進状「参貫文南部庄守護打渡之時下禅教房請取在之」
※簡礼記(室町)四「打渡の事、遵行を受て守護代より地下え下す状なり」
戦国大名家臣に所領を宛行なうにあたり、代官より現地を知行人に引き渡すこと。
出雲国造家文書‐天正一九年(1591)一二月八日・毛利家奉行連署宛行状「可相懃旨候、仍打渡如件」

うち‐わた・る【打渡】

〘自ラ四〙 (「うち」は接頭語)
① こちらから向こうへ橋や川などを越えて行く。
海道記(1223頃)萱津より矢矧「此の橋の上に、思ふ事を誓て打渡れば」
② 通る。行く。来る。
※蜻蛉(974頃)上「夜中あか月とうちしはぶきて、うちわたるも、きかじとおもへども」
③ 二つ以上の事物にまたがる。
※史記抄(1477)一二「秦の地が天下に横て、東海と西海とにうちわたってあらうぞ」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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