日本大百科全書(ニッポニカ) 「拾遺記」の意味・わかりやすい解説
拾遺記
しゅういき
中国の伝説を集めた志怪(しかい)の書。10巻。作者は後秦(こうしん)時代(4世紀)の王嘉(おうか)。三皇五帝から西晋(せいしん)末、石虎(せきこ)の事に及ぶが、原本は滅び、現在『漢魏叢書(かんぎそうしょ)』などに収められているものは、梁(りょう)の蕭綺(しょうき)が再編したものである。内容は奇怪、淫乱(いんらん)な事柄が多く、すべて事実でないとされる。第10巻は崑崙(こんろん)山・蓬莱(ほうらい)山などの名山記である。王嘉は字(あざな)は子年(しねん)。隴西安陽(ろうせいあんよう)の人で、容貌(ようぼう)醜く、滑稽(こっけい)を好んだが、崖(がけ)に穴居したり、その言動は奇矯であった。後趙(こうちょう)の石季竜(せききりゅう)(石虎。在位335~349)の末年、長安に出、終南(しゅうなん)山に隠棲(いんせい)、その予言はよく当たり、前秦の苻堅(ふけん)が淮南(わいなん)で敗れることを予知した。後秦の姚萇(ようちょう)に召されたが、機嫌を損ね、殺された。
[志村良治]
『前野直彬訳『中国古典文学全集6 六朝・唐・宋小説集』(1959・平凡社)』▽『魯迅著、増田渉訳『中国小説史』全2冊(岩波文庫)』