日本大百科全書(ニッポニカ) 「新花つみ」の意味・わかりやすい解説
新花つみ
しんはなつみ
蕪村(ぶそん)晩年の句文集。外題(げだい)「新華摘(しんはなつみ)」。1777年(安永6)に成り、作者没後の1784年(天明4)冊子を横巻(おうかん)とし呉春(ごしゅん)(松村月渓(げっけい))が挿絵7葉を描き入れた。1797年(寛政9)この自筆原本を板下に大坂・塩屋忠兵衛が刊行した。大本一冊。其角(きかく)の『華摘』(1690)に倣い亡母追善の夏行(げぎょう)として4月8日から毎日10句ほどの発句をつくったが、ひとり娘の離縁問題による苦悩のため中絶したらしい。娘を取り戻したのは5月20日ごろと推定され、原本には第一、第二次の中絶の痕跡(こんせき)が認められ、最後の7句はある時間を経て追加されたものと思われる。計137句。初めは明るい夏の風物が美しく歌われるが、終わりのほうは陰鬱(いんうつ)な五月雨(さみだれ)の群作が並ぶ。亡母の不幸な生涯の鎮魂が主題で、『伊勢(いせ)物語』や『曽我(そが)物語』を下敷きにした句も認められる。中絶以後、其角に始まり其角に終わる修業時代の回想記が中世説話風文体を活用してつづられた。とくに「狐狸談(こりだん)」は童話風で軽妙洒脱(しゃだつ)である。
[清水孝之]
『大礒義雄・清水孝之編『新註新花摘』(1953・武蔵野書院)』▽『松尾靖秋他校注・訳『日本古典文学全集42 近世俳句俳文集』(1972・小学館)』▽『清水孝之校注『新潮日本古典集成 与謝蕪村集』(1979・新潮社)』