杉浦邦恵(読み)すぎうらくにえ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「杉浦邦恵」の意味・わかりやすい解説

杉浦邦恵
すぎうらくにえ
(1942― )

写真家、美術家。名古屋市生まれ。ニューヨークを拠点に活動する。フォトグラムなどの写真感光材料を用いた手法により、多彩な表現を繰り広げている。1963年(昭和38)お茶の水女子大学理学部物理学科を中退後アメリカへ渡り、アート・インスティテュート・オブ・シカゴに入学。美術を専攻し、写真、映画についても学ぶ。67年卒業と同時にニューヨークに移り住む。69年初個展(ポートガロ・ギャラリー、ニューヨーク)を開催。同年ジョージ・イーストマン・ハウス国際写真博物館(ニューヨーク州ロチェスター)で企画されたグループ展「視覚と表現」展に出品以後、欧米各地で行われる多数のグループ展に参加。日本でも78年以降、個展などで作品発表を重ねる。

 79年の個展「孤」(ツァイト・フォト・サロン、東京)では、平面的な模様のパターンと女性の裸像を組み合わせたり、風景のイメージに数種類の肌目の異なる平面パターンをかぶせて焼きこむなど、多重露光着色ソラリゼーションといったさまざまな手法を複合的に用い、人間心理の襞に分け入ろうとした一連の写真作品を発表。

 80年代からは、フォトグラムによる実験的な作品制作を展開。カエルウナギ、ヒヨコ、子猫などの小動物の予測できない偶然性に満ちた動きのプロセスを、印画紙上に光の痕跡として現出させた作品群や、89年(平成1)の個展「自然への注意」(ツァイト・フォト・サロン)などで発表された、植物の葉や花をモチーフとし、ペインティング的な要素をも交えつつ制作された作品群などで、高い評価を得る。さらに90年代以降には、X線写真、CTスキャン画像なども使用して、人体をモチーフとした複数の画面の組み合わせによる表現や、フォトグラムの映像を別の印画紙に反転させたポジ像による表現なども追求している。95年の個展「ボクシングの書類」(ギャラリーGAN、東京)では、成人男女や子供の身体動作をフォトグラム化した作品を発表する。97年、MoMA(ニューヨーク近代美術館)の企画展「New Photography 13」に参加。98年愛知県立美術館で大規模な個展を開催した。

[大日方欣一]

『「女性のまなざし――日本とドイツの女性写真家たち」(カタログ。1990・川崎市市民ミュージアム)』『「現代写真の動向1995」(カタログ。1995・川崎市市民ミュージアム)』『「光の化石――瑛九とフォトグラムの世界」(カタログ。1997・埼玉県立近代美術館)』『「杉浦邦恵――惹きつけるもの」(カタログ。1998・愛知県立美術館)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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