村の家(読み)むらのいえ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「村の家」の意味・わかりやすい解説

村の家
むらのいえ

中野重治(しげはる)の短編小説。1935年(昭和10)5月『経済往来』に発表。左翼作家高畑勉次(べんじ)は治安維持法違反で投獄され、2年間、病気・発狂恐怖転向誘惑と闘ってきたが、執行猶予で出所して、1週間前から帰郷している。老父孫蔵は温和で正直な苦労人だが、村の生活をつづった手紙獄中に送り、何度も上京して息子を励まし、擁護してきた。いま、父は子に「村の家」の過去および現在のすべての行き詰まりを説き、転向したからには筆を折って百姓になれ、という。息子は、「よくわかりますが、やはり書いて行きたいと思います」とやっとの思いで答える。「転向」を自己の生存根源でとらえ直し、そこから再出発のエネルギーをくみ出した、「転向小説の白眉(はくび)」である。

[満田郁夫]

『『村の家』(『歌のわかれ』所収・新潮文庫)』『木村幸雄著『中野重治論 作家と作品』(1979・桜楓社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「村の家」の意味・わかりやすい解説

村の家 (むらのいえ)

中野重治の短編小説。1935年《経済往来》に発表。左翼作家高畑勉次は治安維持法違反で投獄され,2年間,病気・発狂の恐怖,転向の誘惑と闘ってきたが,執行猶予で出所して,1週間前から帰郷している。老父孫蔵は温和で正直な苦労人だが,村の生活を綴った手紙を獄中に送り,何度も上京して息子を励まし,擁護してきた。今,父は子に〈村の家〉の過去および現在のすべての行き詰りを説き,転向したからには筆を折って百姓になれ,と言う。息子は,〈やはり書いて行きたいと思います〉とやっとのことで答える。〈転向〉を自己の生存の根源でとらえ直し,そこから再出発のエネルギーをくみ出した,〈転向小説〉の白眉である。
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