改訂新版 世界大百科事典 「業平躍」の意味・わかりやすい解説
業平躍 (なりひらおどり)
若衆歌舞伎の代表的な踊歌(おどりうた)を集めたもの。天和1年(1681)奥書のある塩釜神社蔵《業平躍十六番》に収められている。これらの歌謡がいつごろどういった役柄の役者によって踊られたのか,また業平躍という踊りの実態などについての定説はないが,目録の下に〈業平躍とは大小狂言〉と記されているので,女歌舞伎の座の中で狂言師たちによって演じられていた大小狂言で歌われていたものが,狂言師を経て若衆歌舞伎に伝えられたものと思われる。大小狂言とは,2人の狂言師が,暦の大小を言いたてる演出の中に,踊歌をまじえた狂言と考えられる。〈業平躍〉というのは,若衆の魅力を業平にたとえたところから呼ばれたのであろう。歌詞には滑稽味のあるかなりエロティックなものがあり,若衆歌舞伎の芸態の特色を推測することができる。古い伝承を持つこれらの歌謡の中から,比較的無難な歌詞のものをのこし,さらにほかの歌謡をも加えて〈小舞十六番〉と名づけ,若衆に対する小舞の手ほどきの歌謡として権威づけられ,伝えられた。
執筆者:小笠原 恭子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報