日本大百科全書(ニッポニカ) 「業平餅」の意味・わかりやすい解説
業平餅
なりひらもち
狂言の曲名。女狂言。稚児(ちご)、随身、長柄持ちなど、供揃(ともぞろ)えもにぎにぎしく、在原業平(ありわらのなりひら)(シテ)が玉津島明神参詣(さんけい)の途中、往来の餅屋に休息する。餅を求めるが代金を要求され、銭など持ったこともない業平、代金のかわりに餅にまつわる和歌について語って聞かせるが、餅屋はあくまでお金でなくてはだめだという。万事休した業平が餅を前にしてせつなくため息をつくのを見て、餅屋はあまりの世間離れに驚き、名を問い在原業平と知ると、娘の宮仕えを頼む。餅にありつけた業平は、宮仕えどころか妻にしようと引き取る。ところが、被衣(かづき)をとって顔を見るとたいへんな醜女(乙(おと)の面を使用)。驚いて長柄持ちに押し付けるが断られ、言い寄る娘を突き倒して逃げ入る。さながら王朝絵巻のような登場場面ののち、一転して食欲と色欲にまつわる笑劇が始まる。能に登場する貴公子、在原業平を主人公とした、一種のパロディー狂言である。
[油谷光雄]