改訂新版 世界大百科事典 「模索過程」の意味・わかりやすい解説
模索過程 (もさくかてい)
tâtonnement process
市場均衡の達成過程を説明するために考えだされた試行錯誤の過程。一般均衡理論の創始者L.ワルラスにより最初に提示された。市場で需要と供給の一致をもたらす価格を均衡価格というが,この市場均衡はどのようにして達成されるかを説明するために,需要者と供給者のほかに,つぎの機能を果たす〈せり人auctioneer〉の存在を仮想する。まず,せり人はある価格を提示する。各需給者はこの価格での需給量をせり人に伝える。ついで,せり人は総需要量と総供給量を比較し,総需要量が総供給量より多いならば価格を上げ,少ないならば価格を下げ,この新しい調整された価格を再び提示する。この価格調整を継続することによって価格が均衡水準に収束していくならば,市場均衡は安定であるといわれる。なお売買は均衡価格が見いだされたのち初めて実行されるのであって,均衡を模索している過程では需給者はせり人に各自の需給量を知らせるのみで,売買は実行しないと仮定される。この仮定が必要とされる理由は,もし均衡成立前に売買が行われると各需給者の商品保有量が変化し,それによって需給曲線,したがって需給曲線の交点である均衡点も変位してしまうからである。なお均衡価格に達する以前での売買を認める調整過程は非模索過程とよばれる。また,こうした過程を説明する理論を模索理論という。
執筆者:大槻 幹郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報