市場経済において,さまざまな資源はどのようにして各財の生産のために用いられ,それがどのように消費者間に配分されるかという経済学の基本問題に対して,経済体系の相互依存を考慮した一つの基本的解答を与えるものが一般均衡理論である。この問題を分析するための自然な方法は,価格機構が最も理想的に機能する完全競争市場の場合を想定してみることである。一般均衡理論の創設者L.ワルラス以下多くの経済学者が設定したのも,まさにその場合である。一般均衡理論は二つの支柱から成り立っている。その一つ主体的均衡の理論では,個々の消費者と生産者が与えられた市場価格のもとでどのように行動するかを明らかにし,つづく市場均衡の理論では,いままで所与としていた市場価格の決定について論述する。
いま一人の消費者(家計)を考察の対象としてみよう。完全競争市場においては,彼の直面する価格は所与であり,その所得もさしあたって一定であるとみなすことができる。彼はその所得と価格のもとで効用を最大にするように各生産物とサービス(彼の余暇を含む)の需要量を決定するものと仮定すれば,その最適解は諸価格と所得に依存して決定される。この対応関係は各財について一つずつ定まるが,それが彼の需要関数を与えることになる。市場の需要関数は,それを個人について合計することによって得られる。なお,すべての価格と所得が同一比率で変化しても,消費者の実質的世界は不変であるから,各財の需要量も不変であることに注意しておこう。つまり各需要関数は,ある財一つの価格を1となるように価格ベクトル(と所得)を基準化したときの値を与えるだけで定まってしまうのである。
つぎに代表的な生産者(企業)について考えてみると,競争市場においては各価格に対してさまざまな生産計画(すなわち資源その他の生産要素の投入量と生産物の産出量)のもたらす利潤が定まる。いま生産者が技術的に可能な生産計画の中で利潤を最大にするものとすれば,最適な計画は諸価格に依存して決定される。このようにして,生産物に対する供給関数と生産要素に対する需要関数が求められる。すべての価格が同じ比率で変化しても,最適な生産計画は変わらないと考えられるから,これらの関数はある財の価格を1としたときの値を与えるだけで定まってしまうことに注意しておこう。なお,これまで消費者の所得を需要量を説明する一要因としたが,その源泉は彼の所有する労働能力と企業利潤からの配当等であるから賃金率を含めた諸価格によって表現される。したがって彼の需要関数は結局価格のみの関数とみなすことができる。
さて市場においてある価格ベクトルが与えられたとき,ある財の需要量が供給量を上まわればその財の価格は上昇し,下まわれば下落し,需要と供給が一致する点において初めて取引が行われると考えられる。この需給一致をもたらす価格が均衡価格であり,そのときの需要関数,供給関数の値が均衡消費量と均衡生産量とを定める。外的条件に変化がないかぎり,その状態が維持され,そのように資源配分が決定されるというのが均衡理論の基本的思想である。ここで総需要と総供給とを等置すると,財の数だけの方程式が得られるが,〈ワルラスの法則〉によって一つの方程式は他から導かれてしまう。一方,価格の数は財の数に等しいが,需要関数,供給関数は価値尺度に選んだ財の価格を1としてよいから,財の数より1少ないことが知られる。このように独立な方程式の数と未知数(価値尺度財の価格を1としたときの他の財の価格の数)は等しいから,各市場についての需給の均等を保証する価格体系の存在が原理的に確認されたことになる。
一般均衡理論はL.ワルラスによって創設されて以来,V.パレート,J.R.ヒックス,P.A.サミュエルソンらによって発展させられた。現代の均衡理論はたんに資源配分の決定の機構を明らかにし,その安定性を明らかにするだけでなく,経済の外的条件の変化が経済変数に与える影響の解明,資源配分のさまざまな機構がどの程度望ましい成果をもたらすかについての分析をもその主要な課題とするものである。
→市場均衡
執筆者:川又 邦雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
(荒川章義 九州大学助教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…その最も簡潔な場合を理論化した部分均衡理論は,一つの財だけをとり出し,その市場に直接関係ない諸条件を所与として,均衡を論ずるものである。これに対して一般均衡理論は,人々の嗜好,生産技術,資源の量,法・経済制度等を外的条件として一定とするが,さまざまな財の市場の相互依存関係を考慮して社会全体の経済量の均衡について説明するものである。以下では,それらの理論の内容と関連について多少詳しい説明を加えよう。…
… 今日の新古典派経済学は,学説史的には1870年代にイギリスのW.S.ジェボンズ,オーストリアのC.メンガー,フランスのL.ワルラスによって始められた限界革命と,ローザンヌ大学でワルラスのあとを継いだV.パレートに始まる規範的経済学を基礎としている。このうちとくにJ.A.シュンペーターによって,最も偉大な経済学者として科学史におけるニュートンになぞらえられたのは,一般均衡理論の創始者ワルラスであった。ワルラスの貢献は限界効用概念を導入しただけでなく,社会の経済循環を初めて,すべての生産物と生産要素の市場において,それぞれの財の価格を媒介として需要供給の均衡が成立する一般均衡体系としてとらえる見方を確立したことである。…
…その経済学体系は,交換価値と交換の理論,ないし抽象的に考えられた社会的富の理論である純粋経済学,社会的富の経済的生産の理論ないし分業を基礎とする産業組織の理論である応用経済学,そして所有権の理論であり社会的富の分配の科学である社会経済学からなり,それぞれその著作《純粋経済学要論》(1874‐77),《応用経済学研究》(1898),《社会経済学研究》(1896)に対応する。しかし,経済学史上最も重要なのはその純粋経済学であり,経済の諸部門間の相互依存関係を強調した一般均衡理論を展開し,現代のミクロ経済学の基礎をきずいた。ワルラスはまず生産を捨象した純粋の交換の一般均衡を限界効用理論にもとづき考察し,次に生産を導入して生産要素の市場と消費財の市場の均衡からなる生産の一般均衡に進み,限界生産力説を検討する。…
※「一般均衡理論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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