改訂新版 世界大百科事典 「殺ダニ剤」の意味・わかりやすい解説
殺ダニ剤 (さつだにざい)
acaricide
ダニにはハダニをはじめ植物に寄生する種類も多く,農業上有害昆虫とならぶ重要な有害生物で,これを防除する薬剤を殺ダニ剤という。古くは,マシン油が越冬期の防除に,石灰硫黄合剤やロテノンが発生期の防除に使用されたことがあったが,最近では強力な合成殺ダニ剤が開発されている。化学構造から分類した主要殺ダニ剤を次に示す。
(1)ジアリールカルビノール系殺ダニ剤 ケルセン,BCPEなど,(2)有機硫黄剤 テトラジホン,CPCBSなど,(3)有機リン酸エステル系殺ダニ剤 チオメトン,ジアリホールなど,(4)ジニトロフェノール系殺ダニ剤 dinocap-4,-6,あるいはDPC,DNなど,(5)有機スズ剤 酸化フェンスズ,水酸化トリシクロヘキシルスズ,(6)キノキサリン系殺ダニ剤 キノメチオネート,(7)その他の合成殺ダニ剤 キノメチオネート,アミトラズ,フェノチオカルブ,フェンピロキシメート,ピリダベン,ベンゾメート,ヘキソチアゾクスなど,(8)抗生物質製剤 ポリナクチン複合体。
ハダニ類には年間発生回数が10世代以上に及ぶものがあり,同一の薬剤を使用していると急速に薬剤抵抗性を有する系統が発生する可能性が大きい。したがって,この抵抗性系統の発現を抑えるために,交差抵抗性のない薬剤を輪用することが必要である。また,一般にダニの天敵は昆虫であり,ダニと昆虫の間に選択性のない薬剤を多用すると,昆虫がダニとともに殺され,しかもダニの発生回数が昆虫より多いため,天敵の減少とともに急激なダニの発生をみることなどが知られている。そのためなるべくダニと昆虫の間に選択性のある殺ダニ剤を用いることが好ましい。また殺ダニ剤には殺卵性,殺幼虫性,殺成虫性と異なった生育ステージに効果を発揮するものもあるので,使用にあたってはこの点も十分配慮する必要がある。
執筆者:高橋 信孝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報