改訂新版 世界大百科事典 「殿上日記」の意味・わかりやすい解説
殿上日記 (てんじょうにっき)
清涼殿の殿上の間に候する蔵人が記録する職務日記。当番を組んで執筆したので番記ともいう。養老職員令や《延喜式》には,内記が〈御所記録〉のことをつかさどると規定しているが,いまわずかに遺文の伝存する内記日記は,この規定に由来するものであろう。しかし平安時代に入って蔵人が設置されるに及び,蔵人の記録する殿上日記がしだいに内記日記にとって代わるようになった。《侍中群要》に引く蔵人式には,宇多天皇の勅命として〈当番の記事は,大小となく慎みて遺脱するなかれ〉と見え,さらに〈日記体〉としてその体例を示している。その一日の記事をほぼ完全な形で残している例は寛仁3年(1019)皇太子敦良親王元服の記事など二,三ある。しかし記事の内容が殿上の公事に参列する公卿・殿上人の私日記に共通するためか,しだいに廃絶に向かった。1147年(久安3)蔵人所別当になった藤原頼長は近来廃絶している殿上日記を再興するよう命じたが,結局はほどなく廃亡に帰したらしい。
→日記
執筆者:橋本 義彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報