日本大百科全書(ニッポニカ) 「氷河湖決壊洪水」の意味・わかりやすい解説
氷河湖決壊洪水
ひょうがこけっかいこうずい
glacial lake outburst flood
氷河湖の決壊によって起こる洪水。略称GLOF。氷河の流動により形成された土手のような地形(モレーンmoraine)によって、水がせき止められてできた氷河湖で発生するもので、地震などにより巨大な氷河や周囲の岩壁が崩落して湖の水位が一気に上昇したり、モレーン内部の氷体が徐々に融解して地盤自体が崩壊したりすることで、湖水が流出し下流地域に甚大な被害をもたらす。
ネパールやブータンなどのヒマラヤ地方にある氷河湖は、1950年代ごろから形成され始めたことが確認されている。ヒマラヤ地域の国際機関である国際総合山岳開発センター(ICIMOD:International Centre for Integrated Mountain Development)の公表データ(2007)によると、ブータンには677の氷河と2674の氷河湖が存在する。1994年にブータンで発生したルゲ氷河湖の決壊では、旧首都プナカなどに土石流が押し寄せ、多くの家屋や歴史的建造物が破壊され、死者は21人に上った。GLOFはヒマラヤ地方だけでなく、アイスランド、アラスカ、アメリカ本土、カナダ、中国などの国々でも、しばしば発生している。
2008年(平成20)に採択されたODAの地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS:Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development)により、日本の国際協力機構(JICA(ジャイカ))と科学技術振興機構(JST)などのグループは、2009~2012年にかけて、ブータンとヒマラヤにおけるGLOFに関する研究プロジェクトを実施し、氷河湖の詳細情報や、GLOF発生メカニズムの研究を進めた。また、2013年10月~2016年9月の3年間で、GLOFを含む洪水予警報能力向上プロジェクトを新たに立ち上げ、流域防災計画や洪水予警報システムをはじめとする防災システムの構築などを行った。
[編集部 2017年10月19日]