翻訳|Alaska
アメリカ合衆国最大の州。略称Alas.。面積148万1347km2で日本の4倍以上。人口71万0231(2010)。州都はジュノー,最大都市アンカレジ。州名は,現在のアラスカ半島をさしたアレウト族の言葉alakshakに由来する。連邦加入1959年,49番目。北アメリカ大陸北西端にあり,48州とは離れており,その結果,合衆国は典型的な飛地国を形成する。ベーリング海峡とアレウト列島西部でロシアに対する。地形は全体に山がちで,アラスカ湾に面した南部から南東部にかけてアラスカ山脈,コースト・レーンジズ(海岸山脈)が走り,山岳氷河がよく発達している。この地域は北極,南極,ヒマラヤに次ぎ〈第四の極地〉と呼ばれることもある。アラスカ山脈中のマッキンリー山(6194m)は北アメリカの最高峰である。北部にもブルックス山脈があるが,氷河は少ない。南北の山脈にはさまれた中央部は,ユーコン川がほぼ西流し,流域には湿地,針葉樹林が広がる。アラスカ半島,アレウト列島には火山が多く,カトマイ山などの活火山もみられる。アラスカ州北部は北極圏内にあり,北岸は北極海,ボーフォート海に面し,ツンドラが広がる。南岸,南東岸のフィヨルドが発達した地域やアレクサンダー諸島は西岸海洋性気候で,緯度のわりには住みやすい。野生動物が多く,とくに北極海沿岸のホッキョクグマ,コディアク島のコディアクグマ,ベーリング海のプリビロフ諸島,セント・マシュー島,ヌニバク島のアザラシ,海鳥などは有名である。またムース,カリブーなどの狩猟用動物,キツネ,テン,ビーバーなどの毛皮用動物もいる。
アラスカはアメリカ合衆国に残された最後の開拓地といわれる。経済の中心は鉱業で,石油の産出量はテキサス州に次いで全米2位(1980)。北極海沿岸のプルドー・ベイ,ノース・スロープ一帯の油田はヨーロッパや日本の外国資本を導入して開発が進められている。この原油はタンカーでも搬出されるが,南岸のバルディーズまでのアラスカ・パイプライン(1977完成)も利用されている。石油以外の地下資源としては,フェアバンクス付近の銅,金,白金などが重要である。鉱業に次ぐ主要産業は,サケ,カニ,エビなどの漁業である。また,豊富な森林資源にもかかわらず,その開発,製材・製紙業は南部,南東部の海岸部にかぎられ,シトカの日本企業によるアラスカ・パルプ会社はその数少ない例である。農地はアンカレジ北部とケナイ半島にわずかにあるだけで,野菜や果物が栽培される。アラスカ州の1人当りの平均所得は全米1位であるが,食料品などの生活必需品の多くは移入にたよらねばならない。アラスカは戦略的に重要な位置にあるため,空軍・レーダー基地が多数設置されている。カナダ西部とアラスカを結ぶアラスカ・ハイウェーは産業上も重要であるが,元来は第2次大戦中に軍事道路として建設されたものである。広大な土地に比べれば,開発の対象となった地域はわずかであるが,自然保護運動が活発で,パイプライン建設や森林開発は反対運動をひき起こしている。
アラスカの原住民は,北極海,ベーリング海沿岸部のエスキモー,内陸のインディアン,アレウト列島のアレウト族で,約6万を数える。1741年,V.J.ベーリングの率いる探検隊はアラスカ南部のセント・イライアス山を確認,アラスカ湾内のカヤーク島に上陸した。彼らはロシア皇帝ピョートル1世の命で,アジアと北アメリカとが陸続きであるかを確認するために派遣されたのである。99年にはロシア・アメリカ会社(露米会社)が特許をうけて毛皮交易に従事,1804年現在のシトカに本拠地を設け,初代知事アレクサンドル・バラノフの下にアラスカを統治した。その後アメリカやイギリスの毛皮商人も進出し,ロシア・アメリカ会社の事業不振やクリミア戦争を契機に,アラスカのアメリカへの売却が検討される。67年アメリカはわずか720万ドル(1ha当り5セント,同年の連邦政府予算支出は約3億5700万ドル)でこれを買収した。買収には反対も多く,交渉にあたった国務長官W.H.シューアードの名をとって,アラスカは〈シューアードのアイスボックス〉とも揶揄(やゆ)された。しかし19世紀末から20世紀初めにかけて,ノームやフェアバンクスを中心にゴールドラッシュが起こり,人口は急増,海岸部には多くの缶詰工場が建設され,1912年には準州となった。その後は漁業,鉱業,毛皮交易を中心に発達し,23年には南岸のシューアード,アンカレジとフェアバンクスとを結ぶアラスカ鉄道が完成した。第2次大戦中には,アレウト列島のアッツ,キスカ両島が日本軍に一時占領された。戦後の59年州に昇格。64年には中南部で起きた地震が死者100名をこす被害をもたらした。68年プルドー・ベイで大油田が発見され,州経済の中心を占めるにいたった。
執筆者:正井 泰夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
アメリカ合衆国、最北端の州。面積151万8800平方キロメートル、人口62万6932(2000国勢調査速報値)。面積は50州中最大だが、人口は最小。州都ジュノー。北アメリカ大陸北西端、西半球最大の半島部に位置し、州名もアリュート語で「広大な土地」を意味する。北を北極海、西をベーリング海、南を太平洋およびアラスカ湾と、三方を海に囲まれ、東はカナダと国境を接する。アメリカとロシア連邦の国境線は、ベーリング海のリトル・ディオメード島(アメリカ)とラトマノフ島(ロシア)との間を通っており、両島間は3~4キロメートルしか離れていない。また、アリューシャン列島西端のコマンドルスキー諸島はロシア連邦領である。北にブルックス山脈が走り、中南部から南東部にかけては、断層山脈のアラスカ山脈と、ランゲル山脈が走る。南西部は、アリューシャン山脈があるアラスカ半島から、アリューシャン列島へと続いている。太平洋岸の山岳地域は、北アメリカの最高峰マッキンリー山(6194メートル。2015年デナリに名称変更)に代表される急峻(きゅうしゅん)な山が連なり、ロード・アイランド州がすっぽり入るほど大きなマラスピーナ氷河をはじめ、メンデン、ポーテッジなどの大氷河群が集中する。カトマイ火山を有する大火山帯も走っている。太平洋岸の気候は温暖な海洋性で、天然資源も豊富であり、人口はこの地域に多く分布する。内陸地域は亜寒帯気候で、ユーコン川が東西に流れ、広大な三角州が発達している。北極地域は完全なツンドラ気候で、海岸部は年間8か月は凍結し、短い夏の期間のみ沼沢地になって、カリブー、アザラシの生息地となる。
地形上の制約から農業は小規模で、アンカレッジ近郊やケナイ半島で野菜栽培が行われ、コディアク島やユーニマク島で盛んな牧畜が最近注目され始めた。石油、天然ガスの開発が近年脚光を浴びており、州の経済を大きく左右するようになった。開発は1961年のケナイ油田に端を発し、北部地域の油田とあわせて将来は世界最大の産地になると予想されている。漁業は古くから主産業で、漁獲高世界一のサケを中心に、カニ、エビ、タラ漁が盛んである。州南東部の都市ケチカンはサケ加工業で世界的に有名。また、豊富な林材を利用しての製材業や木工業のほか、毛皮も重要である。地理的にはロシアの極東に対する防衛基地としての重要性がつねに高く、州経済に与える影響も強い。州人口の15.6%はアラスカ先住民およびアメリカ・インディアン、4.0%はアジア系、3.5%はアフリカ系アメリカ人で占められる(2000国勢調査速報値)。エスキモーはその数が減少傾向にあるが、北部地域に集中して住み、漁業で生計をたてている。
[作野和世]
1741年、ロシアのピョートル帝に雇われたデンマーク人ベーリングが発見した。ロシア毛皮商人が徐々に入植していき、18世紀末にはロシア・アメリカ会社が毛皮貿易を独占し、シトカを建設して19世紀初めに繁栄を誇った。しかし19世紀なかばになると、ロシアはイギリスがアラスカを奪いはしないかと恐れて、アメリカへの売却交渉を始め、結局1867年にアメリカのシュアード国務長官が720万ドルで購入した。これは当時「シュアードの冷蔵庫」などと嘲笑(ちょうしょう)されたが、シュアードは太平洋にまたがる海洋帝国建設の一環として位置づけていたといわれる。1896年クロンダイクで金鉱が発見されると、アラスカ一帯でゴールド・ラッシュが起こり、カナダと国境紛争が生じたが、これも調停でアメリカに有利に解決した(1903)。
1912年に準州となり、1959年に49番目の州として連邦に編入され、アメリカの大陸防衛体制の前哨(ぜんしょう)地域として戦略上重要な役割を担っている。
[高橋 章]
アラスカ州のランゲル・セント・エライアス国立公園保護区と、隣接するカナダ・ユーコン準州のクルアーニー国立公園保護区が1979年にユネスコ(国連教育科学文化機関)によって世界遺産の自然遺産に登録されたのをはじめ、1992年にはアラスカ州のグレーシャー・ベイ(氷河湾)国立公園保護区、1994年にはカナダ・ブリティッシュ・コロンビア州のタッチェンシニー・アルセク州立自然公園を含む広域の自然遺産「クルアーニー、ランゲル・セント・イライアス、グレーシャー・ベイ、タッチェンシニー・アルセク」として登録されている(世界自然遺産)。
[編集部]
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北アメリカの最北西部地方。先住民はエスキモー(イヌイット),アリュートおよびインディアン。18世紀前半ベーリングによる探検後,18世紀後半には毛皮取引を独占するロシア・アメリカ会社が組織された。ロシアはクリミア戦争の経験からアラスカ防衛を負担に感じ,1867年に友好国アメリカに売却した。1959年にアメリカの州としての地位を認められた。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
…ほとんどあらゆるタイプの地形がみられるとともに,気候も寒帯から熱帯にいたる気候区が分布する。氷雪気候だけはみられないが,アラスカ南部の山岳地帯は氷雪気候と類似した気候を示す。アラスカ州とハワイ州を除く48州(本土と呼ぶこともある)では,大西洋岸のアパラチア山脈,中央部の平地,太平洋岸のコルディレラ山系に大別できる。…
…一方,極東では日本との間に日露和親条約(1854),樺太・千島交換条約(1875)を締結して国境を画定し,清との間に璦琿(あいぐん)条約(1858),北京条約(1860)を結んで極東へ進出する足がかりをつくった。しかし北米大陸においては,露領アメリカ(アラスカ)の領有がロシアの安全保障上重荷になると判断して,これを1867年アメリカ合衆国に720万ドルで売却した。農奴解放【外川 継男】。…
…ゴールドラッシュを中心とする人口の移動,集中は,従来の西漸運動が東から西へ向かったのと異なり,西から東へとフロンティアを推進する形をとり,鉄道の発達を促すとともに荒野を新しい準州,州へと成長させた。 他方,アラスカでは,1880年代に金が発見され,19世紀末から20世紀初めにかけてノーム,フェアバンクスを中心にゴールドラッシュが起こり,アラスカ発展の基礎となったが,カナダとの境界を定めた1903年の条約締結も金鉱地帯の所有をめぐる対立の結果といえる。カナダではアラスカに接するユーコン・テリトリーのクロンダイク地方のゴールドラッシュ(1896)以前に,1857‐58年にかけてブリティッシュ・コロンビアのフレーザー川流域でゴールドラッシュが始まっており,カナダの西辺の地域を台頭させる原因となった。…
※「アラスカ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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