日本大百科全書(ニッポニカ) 「浮き雲」の意味・わかりやすい解説
浮き雲
うきぐも
Kauas Pilvet Karkaavat
アキ・カウリスマキ監督が1996年に製作したフィンランド映画。ラウリとイロナの夫妻は、慎ましい生活を送っている。いろいろなローンが残っているにもかかわらず、夫のラウリはまたローンで新しいテレビを購入する。市電の運転手をしているラウリは、経営の芳しくない市電の会社でリストラに会い、職を失う。頼りはかつての名門レストランで給仕長をしている妻イロナの稼ぎだけだが、このレストランも近ごろは売上げに伸び悩み、ついには大手のレストラン・チェーンに乗っ取られてしまう。夫の再就職もかなわず、妻もどうにかみつけた就職先が、経営者の脱税によって解雇され、ただ働きの憂き目にあう。労働分の賃金をもらおうと、夫が経営者宅を訪問すると、やくざな男たちから暴行を受ける。ルーレットで大金を得ようとありったけの金を賭けるが、賭けた金はすべてすってしまう。こうしたすべてネガティブな結果へと導いてゆく筋書きは、いかにもカウリスマキらしい。派手なアクションを極力抑え、静かで控えめな進行で登場人物たちの不運な状況を語っていき、最後になんとも心温まる結末に導いてゆく。
[小松 弘]